第1回インターネット活用教育実践コンクール応募 実践報告書


情報化に対応した教育の実践
東京学芸大学教育学部附属高等学校
教育工学委員会
 川角 博


1 部門・学年など
学校教育部門 対象は全学年

2 実践のねらい
 全生徒があらゆる教科の学習やその他学校生活全般において、マルチメディア情報手段を日常的に活用できるようにする。これにより、各教科教育方法の幅が広がり,新たな高等学校教育方法が可能となるとともに,すでに急速な進展を示すコンピュータ・ネットワーク社会に生きる力を生徒たちが身に付けることを目指す。
このために,以下のようなねらいのもとに,実践に取り組んでいる。
(1) 高等学校教育全般における、コンピュータなどのマルチメディア情報手段の活用支援に必要な授業を開発・実践する。
(2) コンピュータなどの情報手段の活用を図りながら、情報を適切に判断、分析する能力を育成する教育方法を実践的に開発する。
(3) コンピュータや情報通信ネットワーク等の情報手段を実践的に活用し、情報化時代に対応した教科教育の支援を可能なものとする。
(4) 高度情報化社会に参画する態度を育てる。
(5) 以上を実現するために必要な授業及び学校生活全般を通しての環境について研究する。
 以上は,過去6年間にわたるマルチメディア情報手段活用実践の取り組み全般について言えることである。この取り組みの中から、さらに次のようにして、「情報」授業を必修としてはじめた。
 本校「情報」授業の出発点は、各教科でのコンピュータ・ネットワークを活用した授業支援のニーズに応えるものである。過去6年間におけるコンピュータ・ネットワークの教育への活用研究により、各教科、生徒個人でのコンピュータ・ネットワークの利用度が高まり、より積極的な利用の希望が増してきた。そこで、全生徒に電子メールアドレスを与え、コンピュータ室を開放してその活用をはかったが、大きな問題が2つあった。1つは、電子メールアドレスを与えても、その使い方を教えるシステムが本校のカリキュラムにはなく、教育工学委員の授業を削るなどして対応せざるを得ず、十分な指導が困難であった。2つめは、各教科でコンピュータ、ネットワークを活用した授業をするに当たって、その利用の仕方から指導しなければならず、本題に至るまでのギャップが大きかった。
 そこで、総合学習の先取りとして情報活用・発信の授業を設定し、あらゆる教科・科目や日常生活での情報活用・発信の支援をすることを企画した。本校での「情報」授業設置の最大の目的はここにある。
 また、新学習指導要領に教科「情報」の設置が決まり、しかし、当時はまだその実態は定かとは言い難いものがあった。これが何を目指すのか、現実にどんな授業をし、どんな生徒を育てようとしているのかがなかなか見えてこない。うっかりすると、抽象的な情報理論の授業になるか、いつの間にか他の教科にすり替えられてしまうのではないかと思われた。21世紀の情報化社会に輩出する生徒に、いま教えておくべきことが何であるのかを、これまでの研究成果と、今後の授業実践で世に訴えていく必要があると考えた。
 これらを総合した結果が、昨年度からの1年生での必修「情報」授業の設置である。したがって、本校での「情報」授業の設置は、教科「情報」の先行研究というよりも、教科・科目や日常生活での情報活用・発信の支援をする必要性に基づくものである。
 以上のことから、「情報」を一年生で必修1単位として設置した。ほとんど全ての教科での情報活用を支援するためには、情報の収集、分析、活用、伝達、発信と表現の能力が身に着く授業を必修として設置する必要があった。また、これを可能とする環境整備や、ネットワーク利用でのルール、広くは情報化社会におけるルールや価値観に関わる授業展開も必要となった。これらを総合すると、必然的に情報化に対応した教育としての教科「情報」の実践ともなっている。

3 特長・工夫・努力した点
 本校で情報活用の教育が成功しているポイントは,ハードと人の確保,ハード的なネットワークと人のネットワーク作りに成功したことにある。これが最大の特長であり,そのための工夫,努力を過去6年間重ねてきた。その結果、全生徒に必修で「情報」授業を実施し、これをティームティーチングでティーチングアシスタントとともに実施している。具体的な特長とそのための工夫,努力を以下に示す。

(1) 全生徒がマルチメディア情報手段を活用できるようにする。
 このためには全生徒、全教職員がいつでも校内どこからでも快適に利用できるインターネット環境を提供する必要があった。そこで、生徒に対しても教職員に対してもコンピュータ・ネットワークが校内での当たり前の存在として市民権を得る必要があった。
 1995年度に端末5台で始まった校内ネットワークは、多くの実践を通してその有用性が校内で認められはじめ、1998年度までに校内隈無くネットワークが張り巡らされた(本校教育工学委員の手作り)。この際大きな問題は、予算が無いことである。生徒にできるだけ自由にネットワークを使わせるために,多くの端末を必要としたが,これらの多くは企業や卒業生などの廃棄物を手直しするなどで確保し,ネットワークの工事から全てのシステムの保守管理,更新までできる限り本校教育工学委員会と卒業生などの奉仕活動で行っている。
このようにして必要なコンピュータ・ネットワークシステムを構築するとともに,コンピュータ・ネットワークシステムが校内で市民権を得る努力も必要であった。そのポイントが2つある。
 1つは、生徒用の端末を充実させるとともに、コンピュータ室を特殊な場所として閉じたものとせず、できる限り自由に使えるように開放したことである。少なくとも昼休み、放課後はほぼ自由に利用できるものとした。また、生徒全員に電子メールアドレスを与え、希望する生徒にはホームディレクトリも与えた(現在は1,2年生の全員がホームディレクトリも持っている)。
 2つめは、できるだけ教官が使いやすく手の届く場所に端末を置いたことである。情報教育の必要性を観念的に理解していただけでは、無理をしてまで新たな授業を設置しようとの機運は高まらない。教官がコンピュータ・ネットワークを中心とした情報活用にどっぷりと浸かって、その有用性や危険性を自ら感じていなければ仕事を増やしてまで「情報」授業を設置することはあり得ない。
(2) 全教科において活用を推進する。
 私たちにとっても,生徒にとってもコンピュータ・ネットワークの活用自体が目的そのものではなく,その活用によりよりよい学習環境を得るなど様々な活用そのものが重要である。本校では,全教科でのコンピュータ・ネットワークの活用が推進されている。これを可能としているのが教育工学委員会である。
 教育工学委員会は,参加自由のボランティア委員会であるが,多くの実践を重ね,実績を示しながら、参加することの価値や楽しさ(相当な苦しさもあるが、それを乗り越える価値も理解されている),国立学校教官としての使命観、何よりも各教科のエキスパートとしてのより良い教科教育を目指そうとする姿勢などに支えられ,多くの教官が集まっている(今年度は、全教官の3分の1以上が教育工学委員であり、この委員会のメーリングリスト参加者は、全教官の半分以上をはるかに超えている。このようにして活動する委員会だからこそ,「情報」授業でのティームティーチングも当然のように実施され,これが校内情報の流通をも促進し,学校経営にも良い影響を与えているといえる。
 この教育工学委員会を中心に昨年度からはじめた「情報」授業を中心に、各教科でのインターネットなどコンピュータ・ネットワーク活用が自由にできるよう、生徒の(教官自身も)コンピュータ・ネットワークリテラシーを育てている。
(3) 全国の多くの高等学校にも参考となる現実的な実践とする。
 できる限り,特別な仕掛けや難しい操作を必要としないで、マルチユーザーが利用できる環境や方法を開発した。特に、限られた端末に対して多くのユーザである生徒が、校内のどの端末からでも同様な環境で、ネットワークが活用できるようにUNIXサーバー上に全生徒(もちろん全職員も)のホームディレクトリを構築し、きわめて簡単にこれを利用できるものとした。
 各教科での活用においても,ごく普通に使われるソフトを中心に授業が開発されている。
(4) 教員養成系大学の附属高校として、教員養成支援についても実践的に取り組む。
教員養成の新しい試みとしてのティーチングアシスタントを導入している。
「情報」授業を実施するには,あまりにも多くの仕事がある。特に、コンピュータ活用能力に関してきわめて幅のある生徒全員を対象とするため,たとえティームティーチングで授業を実施しても,授業時間外まで含めての指導などは欠かせない。この問題を解決するとともに,あらゆる教科の教官がチームで実施する授業に、教官と同様な立場(教育実習とは明らかに違う立場)で教員志望の学生を参加させ,授業そのものについて実践的に学ばせ,放課後の指導や評価にまで参加させて、真に身のある教育実践の場を年間を通じて与える。生徒と接触する機会は、授業だけでなく放課後などにまで広がる。

 このような実践をするにあたり,保護者の理解を得る努力も必要であった。一見余分とも見える「情報」の授業を実施するにあたり、保護者には、「情報」授業の参観やインターネットの体験会などを年間6回程度実施し、その趣旨を理解していただいている。これには毎回40〜50名程度の参加があり、保護者の関心はきわめて高い。
 また、本校の取り組みを広く公開するために、公開研究会を毎年実施し,授業公開や研究協議を行っている。このような取り組みは、毎年1,2冊の研究紀要としてまとめている。

4 実践内容
 本校の研究実践体制と「情報」授業の基本構造は、別添資料P.132,145(別途郵送)「情報化に対応した教育課程の編成と実践」(東京学芸大学教育学部附属高等学校 研究紀要 Vol. 37 平成12年3月)等を参照されたい。
(1) 本校でのコンピュータ・ネットワーク活用の実践研究項目
1 マルチメディア通信共同利用実験 (平成7年度〜8年度)
2 GOINのGlobal School House Project(平成7年度〜8年度)
3 GSH(Global School House)Project(平成7年度〜8年度)
4 オープニングデモンストレーション開催
--インターネットの教育への利用方法(平成7年)--
5 マルチメディア通信共同利用実験研究発表(平成7年)
6 インターネット公開研究発表会開催(平成8年)
7 International Students Project参加(平成8年〜)
--平成8年は南アフリカ、平成9年はオーストラリアにて参加--
8 高等学校におけるインターネットの教育活用に関する実践的研究(平成9年〜)
9 高等学校教育へのインターネット導入の試み(東京学芸大学教育学部附属高等学校 研究紀要 Vol. 34 平成9年3月)
10 OCNシンポジウムにて研究発表(平成9年)
11 K12マルチメディア高速活用実践報告(東京学芸大学附属学校研究紀要 第24集平成9年6月)
12 高等学校教育へのインターネット活用実践報告(東京学芸大学教育学部附属高等学校 研究紀要  Vol. 35 平成10年3月)
13 文部省教育課程研究指定校(平成10年〜平成11年)
--情報化に対応した教育課程の編成とその実践--
(平成11年3月 中間報告)
14 遠隔望遠鏡による天文授業(平成10年)
15 第40回高等学校教育研究大会(広島);「情報化に対応した教育の実践」を発表(平成10年)
16 「情報化に対応した教育の実践」(東京学芸大学教育学部附属高等学校 研究紀要
  Vol. 36 平成11年3月)
17 実践教育研究;1年生に必修1単位「情報」授業開始,IPAその他との共同実験も実施(平成11年度)
18 「情報」授業の実践;情報処理学会sss99研究発表(平成11年)
19 第41回高等学校教育研究大会(東京);「情報教育での大学との連携ーTAの実践」を発表(平成11年10月)
20 第41回高等学校教育研究大会(東京);「情報教育を中心とした総合学習−TTの実践」を発表  (平成11年10月)
21 公開授業研究会実施;情報化に対応した教育の実践
 -21世紀を支援する情報教育-(平成11年10月)
22 教官研究費プロジェクト;情報化と総合化に対応したコンピュータネットワーク・マルチメディアの  高等学校教育への活用に関する研究--「情報」授業の実践に基づいて(平成11年度)
23 教育改善推進費による一般公募プロジェクト;新教科「情報」の総合的学習への応用に関する研究  (平成11年度)
24 文部省研究開発指定校;生徒の認識と学習観の発展を支える小・中・高一貫した教育(平成11年度)
25 学長裁量経費プロジェクト;「小中高の系統的な情報教育とその教育支援活動に関する研究」(平成11年度)
26 「情報化に対応した教育課程の編成と実践」(東京学芸大学教育学部附属高等学校 研究紀要 Vol. 37 平成12年3月)
27 平成10,11年度文部省教育課程研究指定校「情報化に対応した教育課程の編成とその実践」研究報告書(平成12年3月)
28 「情報」授業の実践に必要な人的環境の整備(東京学芸大学附属学校部 研究紀要 
   第27集 平成12年6月)

(2) 各教科でのコンピュータ・ネットワーク活用例
 生徒用スタートページには、一般的な検索エンジンへの接続のほかに,教科に特化したリンクや,進路情報等がある。また、情報授業で利用する全生徒のホームページへのリンクがあり、生徒として受講している教官のページやゲストとして体験されるページも用意してある。
 各教科での活用例を、以下に示す。
・現代文;電子メールとホームページを利用した意見交換による学習
・古典;古文の検索と考察(国文学研究資料館)、考査情報発信
・地理;地理に関する統計情報収集と活用、生徒のレポート発表、地理実習情報
・公民;インターネットなどを活用した現代社会の授業、政経の授業
・数学;グラフ計算機の利用による、関数の理解など
・物理;各種実験情報発信、表計算利用によるシミュレーションと実験データ解釈、生徒のレポート発表、物理に関する検索学習、大学教官による遠隔特別授業
・化学;化学のQ&A、シミュレーションによる分子モデルの学習、実験情報
・地学;地学実習情報、リモートテレスコープを活用した天文の授業、大学や天文台などを結ぶ遠隔講義
・英語;英文電子メールの活用
・芸術;作品展、作品鑑賞
・家庭;弁当展
・保健体育;保健に関する調べ学習と発表
他に、情報の授業を利用して、夏休みの自由研究のWebページでの公開、生徒による情報授業つくりなども行っている。
(3) 特別活動などでの利用
・ 国際文化交流(阪神大震災とサンフランシスコ大震災に関連してのJefferson Junior High SchoolとVideo conference;1995年、南アフリカ,オーストラリアなどでのInternational Students Projects 参加;1996,1997年など)
・ CU-SeeMeを利用したESSによるカナディアンアカデミー等との交流
・ CU-SeeMeを利用したアメリカンスクールとの合同ホームルーム
・ CU-SeeMeを利用した「沖縄基地問題」に関する沖縄の高校との意見,情報交換
・ ネットミーティングを利用した、ネットワークセキュリティに関する他校との意見交換会
・ 生徒会および各クラスによる文化祭に関する情報発信とリンク
・ 各クラブでの情報発信、OB、OGとの連絡
・ 卒業生ネットワークの活用
・ 同窓会との連携
・ 林間学校の事前学習,準備,指導への利用
・ 遠足,修学旅行の計画,準備への利用

(4) 平成11年度「情報」授業内容項目
<1学期>
ねらい
コンピュータリテラシー基盤の確立
ファイル共有・ホームディレクトリの利用,情報伝達の基礎,メールの利用,Webの利用,基本的情報技術と情報倫理観,基本的描画と処理
内容
第1回 コンピュータ室の使い方とマウスの練習
第2回 ホームディレクトリの使い方と電子メールの準備
第3回 電子メールの利用と注意
第4、5回 Webの利用その1、2
第6,8回 WWWコンテンツの作成(筑波大学 久野先生、神戸大学 辰巳先生による授業)
第7、9回 name plate imageの製作
第10回 情報伝達における約束事(日立IA)
<2学期> 
ねらい
情報活用能力の応用的実践力の育成
Web等による情報発信活用,表計算によるデータ分析・表現,ディジタル化に関する理解,ネットワークセキュリティー,プレゼンテーションの基礎
内容
第1回 ワープロを中心として, @統合ソフトとしての利用を扱う。Ahtml出力によるWebページ化を扱う。夏休み中の自由研究を各自のWebページに公開する。
第2回 表計算1(グラフ化とhtml出力)
第3回 音のディジタル化(日立IA)
第4回 表計算2(関数の利用)
第5回 著作権について( 岡本 薫氏による特別授業)
第6回 プレゼンテーションの基礎 
第7回 プレゼンテーション発表会
第8回 Net Work セキュリティー(日立 IA)
第9回 Net Work セキュリティーについてのネットワーク利用討論会
第10,11回 班毎にテーマを決めて調査と発表準備
第12回 電子商取引について(日立IA)

<3学期> 
ねらい
総合実践
1,2学期に獲得した技術,知識を総動員して,情報授業を企画・実施し,自己分析する。
内容
a 各チームの特色を生かした情報の授業 内容、やり方、時期は全てチームに任せる。
・ディジタル ハード&ソフトの基礎の基礎
・コンピュータの歴史
・Web検索の技
・その他
b 「情報授業」を創ろう
 ・生徒による情報の授業;生徒が生徒に教える。
 ・準備に3時間程度あてる。
 ・10分間の授業をする。
 ・5分程度の試験(各班で作成)をし、相互評価する(伝えたいことがどの程度伝わったのかをテストで調べる)。
 ・試験結果を分析し、自己評価する。
 *いかにして自分が伝えたいことを、確実に伝えるか。
  →このために必要な、最適の手段となる教材を用意。
   最適の手段は、コンピュータとは限らない。
   オリジナルなデータに基づく授業
 *どのように伝わったかの分析
  →表計算は必ず利用して、分析レポートを出す。
(5)  平成11年度「情報」授業の各学期における評価の観点
1学期;各項目が出来たかどうかのみの判断、全員が出来るようになることを目指す
2学期;各項目が出来たかどうかと同時に,オリジナルな情報発信,分析の工夫,表現の工夫,自らの意見,共同作業への参画などを評価
3学期;
 ・授業,評価テスト,レポートなどの教官による評価・毎時の活動報告評価
 ・授業テストの生徒の個人評価
 ・授業テストによる生徒の相互評価
 ・授業テスト結果の分析による自己評価・特別授業に関する教官による評価

5 実践結果
 生徒にコンピュータリテラシーが育つことにより,インターネットを活用して様々な情報を集め,活用することは日常的に当たり前のこととなっており,これらを活用した各教科でのレポート作りは,生徒にとっても教官にとっても常識になってきている。もちろん電子メールの活用も日常的であり、特別なものではない。情報の授業に限らず様々な教科でのメールによる情報交換はもちろん,学級担任がクラスメーリングリストを活用したり、クラス内で文化祭情報を交換するなど、活用方法は多岐にわたり成長している。
 1年生後半になると、生徒のインターネットなどの活用能力が総合的に身につき、地理や保健などでの調べ,発表学習にその成果が現れている。
 また、全生徒に系統的にコンピュータ・ネットワークの活用学習をするようになってから、明らかに端末コンピュータの故障が減っている。これは正しい利用方法が身につくとともに,大切に使う気持ちも育ったものと思われる。情報倫理に関する問題も、具体的に考えさせながら、生徒間での討論なども交えて学習させることで理解が進み,理解にとどまらず行動にも現れている。著作権についても、これを尊重することの大切さが行動力として身につき,自らのオリジナリティーあふれる情報発信こそが重要であることも,よく理解された。このようなことは,各自のWebページつくりで常に意識されている。
 
6 考察(今後の課題)
(1) 明らかとなった多くの課題
・TAの確保,金銭的な保証や保険制度の検討を要す
・TTによる情報交換の複雑化
・サーバー,ネットワーク,端末などの保守管理が大変 期待に応えて,活用度が上がるほど大変
・生徒全員のアカウント発行,ホームディレクトリ分与も大変
・すべてをサーバーネットワーク上で行うことの危険性は大きい
・コンピュータ室,生徒回線,生徒端末共有の解放を支える指導管理も大変
・実践に伴う情報倫理やセキュリティーの共通理解が不十分
・著作権上の問題は山積み
・今後の情報以外の教科や特別活動での活用推進が大切
・端末の確保など金銭的な問題が付いて回り,この解決は学校レベルでは困難

(2) 本実践に基づく提案
1 教科情報は各校の実態に合わせて学習内容を考慮し,1年生に必修として開始するのが好ましい。
2 授業は,情報の専門家を中心にあらゆる教科が協力したTT(3名程度が必要)及び大学生などのTA,学校外の特別講師等も交えて実施する。
3 学校全体のコンピュータネットワークを管理運用し,その活用のアドバイスが出来る電子司書を各校に配置する。
4 各学校からインターネットへの接続は,高速専用回線を利用して,各都道府県教育委員会レベルで運用する学校用ネットワーク(school network)やそれらを束ねる全国規模の教育用ネットワーク(educational network)(文部省などが運用)を通して行う。
5 校内端末は,1週間(5日)で全校生徒が少なくとも1日は放課後に利用できる環境が望ましい。このためには,生徒5人に1台の端末が必要となる。この利用は,開架式図書館や教室文庫のごとく自由な利用環境が望ましい。
6 教職員には,一人一台のネットワーク接続端末を与える。
7 教職員、生徒全員のアカウントを発行し、ホームディレクトリを与える。
8 今後は,クリップファイルなど動画を含むマルチメディア利用を可能とするため,基幹1G,支線100M以上の校内回線を校内隈無く構築する。
9 生徒用と教職員用の回線を厳しく分離する。
10 コンピュータ室、生徒回線、生徒端末共有を生徒に開放する。
12 生徒の共同作業を必要とする授業を最終目標に入れ、コンピュータネットワークが人間と人間のコミュニケーションであることを意識させる。
13 実践を伴う情報倫理やセキュリティの重要性を教える。
14 成績処理などを含む業務用に,インターネットと物理的に分離したイントラネットを別途構築する。
15 教室,特別教室にはコンピュータ画面の投影が可能なプロジェクタを配置する。
16 ディジタルカメラなどのマルチメディア入力周辺機器を充実する。スキャナについては,教員によるコントロール下に置き,必要に応じて生徒に活用させる(安易な利用は著作権に関する意識が薄れる)。
17 サーバーへのファイルの転送には,各自のホームディレクトリにのみに転送でき,しかもドラッグ&ドロップ程度で転送が済む方式がよい。

(3) コンピュータ・ネットワークの活用実践研究を通して得られたヒューマンネットワーク
 授業について多くの教官が集まってこれほどに議論を重ねて授業を作り上げる機会ができたことは、本来の教科授業や教育実習生指導、さらには学校運営にさえ何らかのよい影響を与え得るように思われる。もはや個人の力では成立できない、多岐にわたる情報教育が、必要に迫られて校内の協力体制や情報交換の場を生み出し、学校教育の現場に新鮮な活力を生み出すかも知れない。
 コンピュータ活用のために構築したネットワークは、校内に新たな人的ネットワークを生み出した。更なる活用を目指して,学外の企業や研究所との共同研究を進めることで、人のネットワークは学校外へと広がった。端末の不足を訴え,卒業生に廃棄コンピュータの提供を呼びかけ,思わぬ反響に驚かされた。卒業生と母校は、教育支援と言うネットワークでつながる。保護者には積極的に情報授業を見せ,インターネット保護者見学会を、繰り返した。保護者とのネットワークも着実に,広がりつつある。
 私たちは,情報授業の中で、人とコンピュータとのコミュニケーションではなく,人と人とのコミュニケーションのためのコンピュータ・ネットワークの活用を生徒に伝えてきた。その授業を軸に,私たちは様々な人と人とのヒューマン・マルチネットワークを育てていたのである。
 この協力体制をさらに拡張すれば、大学や地域社会、保護者などとの連携も生まれてくるであろう。附属学校の特長を生かす意味で、大学や他の附属小中学校等との連携をはかった研究もめざしてはいたが、今回の研究では具体的なものとならず、今後の課題として残っている。
 情報の授業実践研究は、始まったばかりである。ハード、ソフト、人的環境、予算措置、各種支援体制、情報交換体制など研究を深めねばならない内容は限りなく残されている。来年度は、今年度の実践を活かして、2003年の指導要領実施において全国の高等学校が情報の授業を実施するための実用的な研究を更に深めたい。