平成10,11年度高等学校教育課程研究指定校

研究成果報告書




情報化に対応した教育課程の編成とその実践
















東京学芸大学教育学部附属高等学校
東京都世田谷区下馬4-1-5

担当者:川角 博

(電話:03-3421-5151、FAX:03-3421-5152)   
(e-mail:kawasumi@gakugei-hs.setagaya.tokyo.jp)




研究主題 情報化に対応した教育課程の編成とその実践

国立東京学芸大学教育学部附属高等学校
東京都世田谷区下馬4-1-5
校長 永島 惇正    

氈@学校の概要
 1 課程別・学科別,男女別生徒数

 2 教職員数



 3 教育課程編成状況
  教育課程表 省略



 研究成果の要旨
1 研究のねらい
^ 高等学校教育全般における、コンピュータなどのマルチメディア情報手段の活用支援に必要な授業を開発・実践する。
_ コンピュータなどの情報手段の活用を図りながら、情報を適切に判断、分析する能力を育成する教育方法を実践的に開発する。
` コンピュータや情報通信ネットワーク等の情報手段を実践的に活用し、情報化時代に対応した教科教育の支援を可能なものとする。
a 既存教科の情報化に対応した教育課程および独立教科としての「情報」の教育課程への位置づけと、教科「情報」の授業内容を具体化する。
b その教育課程に基づく授業実践をし、情報化に対応した教育課程の編成の具体化とその問題点を探る。
c 高度情報化社会に参画する態度を育てる授業内容などを具体化する。
d 以上を実現するために必要な授業及び学校生活全般を通しての環境条件を研究し、教科「情報」実施に必要な雛形を示す。

2 研究実践
^ 各教科での利用と教科「情報」の設置
 各教科でのコンピュータとネットワークの活用例を,以下に項目のみあげる。それぞれに関する詳しい内容は、東京学芸大学教育学部附属高等学校 研究紀要 第34,35,36,37集 の教育工学委員会による論文,日本理科教育協会「理科」第30巻 第2号「物理におけるインターネットの利用」等を参照されたい。
・現代文
 電子メールとホームページを利用した意見交換学習
・古典
 古文の検索と考察(国文学研究資料館)
 考査情報
・地理
 地理に関する統計情報収集と活用
 生徒のレポート発表
 地理実習情報
・公民
 現代社会の授業
 政経の授業
・数学
 グラフ計算機の利用による、関数の理解など
・物理
 各種実験情報発信
 表計算利用によるシミュレーションと実験データ解釈
 生徒のレポート発表
 物理に関する検索学習
・化学
 化学のQ&A
 シミュレーションによる分子モデルの学習
 実験情報
・地学
 地学実習情報
 リモートテレスコープ
 大学、天文台などを結ぶ遠隔授業
・英語
 英文電子メール
・芸術
 作品展
 作品鑑賞
・家庭
 弁当展
・保健体育
 保健に関する調べ学習
 このように,あらゆる教科でコンピュータ・ネットワークを授業で利用している。これを可能とするには,1年生に必修で情報授業を設置し,コンピュータ・ネットワークの活用支援をする必要がある。これにより,コンピュータを利用した調査,分析,プレゼンテーション,情報発信,メール活用等が各授業で自在に可能となる。
 そこで,本校では先に示した教育課程表のように,「情報」を必修として1年生においた。実際,2学期以降に保健,地理等での調べ学習,現代国語でのメールの利用,地学などでのレポートへの活用などに情報授業の成果が活かされている。また,単にコンピュータネットワークの利用能力が身に付いただけではなく,セキュリティー,著作権上の問題,情報倫理的な問題などに対する意識も高まり,コンピュータ故障等のトラブルも前年よりも格段に減少している。

_ 「情報」授業の指導体制
ア 教官の体制(TT)
 この授業は、本校教育工学委員会のメンバー14人を中心に企画・実施されている。委員以外にも、教育工学委員会の連絡用メーリングリストに加わり、授業のサポートにのみ参加する教官や、受講生として生徒と一緒に同じ授業を受けている教官さえもいる。結局、この「情報」授業には、本校教官のおよそ半数に当たる二十余名が参加している。授業は、あらゆる教科、科目の教官が混在したチームティーチング(以下TTとする)により実施されている(TTの組み合わせ表参照)。更に4名のティーチングアシスタント(以下TAとする)(東京学芸大学4年生、大学院生)なども加わり、教材研究、授業、評価、補習、分析、メンテナンスなどを精力的に行っている。
 TTとしたのには3つの理由がある。
a 過去の経験から、実習的要素の多い情報授業では、個人による一斉指導が困難であることが分かっていた。特に、コンピュータ操作などに大きな個人差が有り、これが一層一斉授業をやりにくくしている。複数教官による個人指導が随時必要となると判断したのである。また、授業を企画した段階では、TAの存在は考えられてもおらず、教官がTAとしてもはたらくつもりでいた(現在でも教官にその役割はあるが)。
b もともと、従来の教科・科目の授業でのコンピュータを中心とした情報活用・発信を支援する目的で情報授業を設置したので、異なる教科・科目の教官が混在して授業を実施すること自体が望ましかった。
c 情報授業自体が、教育そのもののあらゆる分野に関わっていると同時に、どの教科にも属していないとも思われる内容が考えられ、これらを克服するためにティームを組んだ。
 TTによって得られた成果を以下に挙げる。
・生徒に個別に対応でき、きめ細かいサポートができた。また、生徒の様子もよく把握できる。
・異なる教科の教官により、授業を企画・実施しているので、様々な発想がでて、授業の展開の幅が広がった。
・他の教官の授業を見学する機会にもなり、お互いに刺激を受け、また、他教科の教官とのコミニュケーションが増えた。
 普段各教科の教官室に別れている本校の教官にとって、他教科の教官から様々な刺激を受けながらコミニュケーションを取ることで、情報の授業に限らず、自分の教科の授業や、ひいては学校運営にも良い影響が出るのではないかと考えられる。
 次に問題点をあげる。
・教育工学委員全員が集まる機会を作ることが困難である。
・責任の所在が曖昧になることがあった。
 情報授業のTTという取り組みは、われわれ教官にとって、得るものが大きい貴重な経験であった。それは、単に1クラスを複数の教官で担当することで、生徒に目が行き届き、教えやすくなったというだけに止まらない。新しい教科の内容を多くの同僚と議論しながら作り上げていくという作業は、非常に負担は大きいものの、創造的でやりがいのあるものであった。これは、本校の情報の授業が総合的な学習という側面も兼ね備えているからに他ならない。先に述べた問題もあるが、本校の情報の授業は異なった教科の多くの教官によって成立しており、今後もTTを継続して行い、これまでの反省を踏まえてTTのより良い運営方法を確立していくことがこれからの課題である。

  また、授業について多くの教官が集まって,これほどに議論を重ねて授業を作り上げる機会ができたことは、本来の教科授業や教育実習生指導、さらには学校運営にさえ何らかのよい影響を与え得るように思われる。
  情報授業担当者の負担増は大変大きなものであった。それでも,「情報」授業には,TT体制が必要かつ有効と言える。
イ 授業の外部支援体制(TAなど)
 情報授業を円滑かつ強力に展開するために、本学学生によるTAの可能性も教育工学委員会で検討された。TAにとっては、教育の実践学習の場面が得られることになり、教官にとっては負担減と大胆な授業の企画が可能となる。
 また同時に、現場教官が専門としない著作権などについては、大学教官等による特別授業も実施した。
 大学生(大学院生)によるボランティア的補助と大学の教官等による特別講義は、附属学校の特長を生かしてこそできるものであり、教育系大学における附属学校の存在意義を示すものである。
 現在、表に示すTAが実際に授業に参加している。TAの主な授業支援内容は次のようなものである。
a 授業中の生徒の質問に対する対応
b 日常的な仕事
・授業実施前の準備  
 各端末の初期設定の確認
 生徒用サーバーに対する設定・準備
・昼休みや放課後のコンピュータ室・視聴覚室の開放時の指導と管理
 端末・アプリケーションの操作法等の生徒に対する対応
 コンピュータ室・視聴覚室開放時間での機器管理の補助
・授業やコンピュータ室開放後の端末のメンテナンス
・コンピュータ室の利用状況の調査と分析
・授業の教材つくりの補助
・授業で得られた情報の整理と分析
・生徒の達成度の情報収集
・放課後等の補充学習での指導支援
・授業を支援する立場での感想・意見の集約
c 端末やネットワーク等の保守・管理の補助
d 保護者向けインターネット教室でのアシスタント

ウ TA活動によって得られたこと
a 授業担当者の立場から考えられる有用性
・簡単な質問への対応など生徒に対してこれだけきめ細かな対応はTTだけの授業体制では不可能である。
・放課後の指導、特にトラブルの対応にはTAの補助は必需といえる。
・授業が連続するときのファイルの準備・整理においてTAの存在は大変大きい。
・授業後の端末のメンテナンスをTAが行ってくれるおかげで、翌日以降の授業が円滑に行えている。
・TAによる客観的な授業報告は、その日の授業や生徒行動の問題点にまで盛り込まれており、それ以降の授業運営の対策になる。
b TAの立場から考えられる有用性
・情報授業に対する教官組織の在り方や協力の在り方を自然に身につけられる。
・同じ授業を各授業担当者が異なるアプローチで試みるのを見ることによって、各授業者の指導法の創意工夫や問題点をごく自然に学ぶことができる。
・個別指導を通じて生徒が課題を解決し理解するまでの過程をしっかりと観察できる。
・教育実習よりもはるかに生徒との直接的な交流がある。
・TAを単に実習生としてではなく、一指導者として見ているので、指導の成果が直接TAにフィードバックされ、達成感や満足感が多く得られる。
 以上のように,「情報教育」にTTやTAを導入することをきっかけとして,学校教育や教員養成の在り方に,大きな改革の可能性すら感じ取ることが出来る。

` 「情報」授業の環境作り
 「情報」の授業を校内から積極的に立ち上げ,自分たちの授業を増やしてまで,新たな授業を生み出せた理由として,人間ネットワーク作りに成功したことと,コンピュータ・ネットワークの自然な利用環境の構築をしてきたことがあげられる。
 まず,できるだけ教官が使いやすく手の届く場所に端末を置き,ネットワークを引いた。情報教育の必要性を観念的に理解していただけでは、無理をしてまで新たな授業を設置しようとの機運は高まらない。教官がコンピュータネットワークを中心とした情報活用にどっぷりと浸かって、その有用性や危険性を自ら感じていなければ仕事を増やしてまで「情報」授業を設置することはあり得ない。
 1995年度に端末5台で始まった校内ネットワークは、その有用性が教員に認められはじめ、昨年度までに校内隈無くネットワークが張り巡らされ(本校教育工学委員の手作り)、各研究室、特別教室、図書室やコンピュータ室などに60台ほどの端末を設置していた(現在約90台)。生徒用の端末を充実させるとともに、コンピュータ室を特殊な場所として閉じたものとせず、できる限り自由に使えるように開放した。少なくとも昼休み、放課後はほぼ自由に利用できるものとした。また、生徒全員に電子メールアドレス、ホームディレクトリも与え,誰もが利用しやすい環境整備をした。
 次に示すネットワーク図は,教育工学委員会が五年間で作り上げた本校のネットワーク構造である。

現在のネットワーク構造は,光回線(1G)を基幹とした,100Baseに新規構築してある。ただし,旧ネットワークも並存しており,イントラネットとしての利用価値がある。


a 授業環境
 「情報」の授業環境は、2台のサーバー(ともにsolarisで動き、1台を主に授業用に利用している)と生徒用端末約50台(全てマッキントッシュ、半分はiMac)である。生徒用端末はコンピュータ室と視聴覚室に分かれており、生徒が1人1台の端末を利用する場合には、2部屋に分かれることになる。現在、全生徒(1000名を越える)に電子メールアドレスを与え、1学年337人の全生徒一人一人にはホームディレクトリも与えている。電子メール(Eudoraを利用)や情報授業での作品、各自のWebページなどは、こののホームディレクトリ(一人あたり10Mを配分)に保存させている。unix上の各自のホームディレクトリへのアクセスは、マックのセレクタ機能をunix側のnetatalkにより可能にしている。セレクタによるファイル共有と全く同じ方法で各自のホームディレクトリが利用できる。このシステムにより、構内のあらゆる端末から、容易かつ自由に電子メールを利用し、任意のファイルを保存、更新、削除できる。当然、自分のWebページの制作、修正なども自在である。
 同様に教官用とTA用およびゲスト用としてJ組(本校のクラスはH組まで)のホームディレクトリがある。また、セレクタ上で教材配布用にGUESTという、パスワード無しに利用できるフォルダーも他のホームディレクトリと同列で存在する。
 教材の配布には、前記のGUESTフォルダーや教官用端末の一台に設定したファイルシェアー用のフォルダー(読み出し専用)を主に利用している。また、作品の提出には、各自のホームディレクトリからWebページとして提示したり、教官用端末の一台に設定した、ファイルシェアー用のフォルダー(書き込み専用)を主に利用している。授業の指示は、多くの場合クラス毎に設定したメーリングリストを通して、一斉に配信している。テキストベースの課題提出には、各情報担当教官用メールアドレス宛に電子メールを利用させている。このように、情報授業に関する教材の配布、課題の提出は、ほとんど電子ファイルによっている。
 情報授業で使うアプリケーションソフトは、ほとんどすべてがプリインストールされたもの、フリーウェア、および自作教材である。それでもおおむね必要な授業はできたと思われる。
 ネットワーク系列は図のように,教官用と生徒用で分離されており(工事は教育工学委員が行った),生徒用端末から教官用回線は見えず,その存在さえ分からない。
 また、ネットワークの保守管理や構築なども可能な限り教育工学委員があたった。しかし、あまりにも時間的な負担が大きく、また専門的な知識も必要であるので、全国の学校でこれを前提にすることは現実的ではない。この点について、実際に「情報」が実施される時点では、教育現場で必要な保守管理やアドバイスをする専門家が必要である。

b 授業の基本構造
 以上のシステムを利用して、授業はおおむね図のような流れで展開されている。図中のア〜キは、以下の文に対応している。
ア 情報の授業は、学期の前の長期休暇中までに、教育工学委員会で授業項目・内容を決定し、各授業に対して授業開発担当者の割り振りを行う。
イ 授業開発担当者が、指導案(分刻みの授業台本)を作成し、教育工学委員会のメーリングリストで回覧する。ここで、指導案の改善等の意見を電子メールで吸い上げ、最終的に指導案を決定し、再度回覧する。
ウ 生徒へは、クラスメーリングリストを通して学習指示を送信しておく。
エ 生徒用教材ファイルをguestディレクトリ、読み出し専用share folder等に置く。
オ 指導案をもとに、8クラスでそれぞれの担当者が授業を実施する。
カ 各授業をTAが観察して、生徒の反応や、機器の問題点、授業の反省点、提出物の状況等をメーリングリストに送信する。
キ TT、TAによる授業、学習状況の分析・評価、課題未提出者に対する対応に当たる。
ク 次の授業担当者は、以上を参考にして授業を改良して実施する。

c 「情報」学習のねらいと内容
<1学期>
ねらい
コンピュータリテラシー基盤の確立
ファイル共有・ホームディレクトリの利用,情報伝達の基礎,メールの利用,Webの利用,基本的情報技術と情報倫理観,基本的描画と処理
内容
第1回 コンピュータ室の使い方とマウスの練習
第2回 ホームディレクトリの使い方と電子メールの準備
第3回 電子メールの利用と注意
第4回 Webの利用その1
第5回 Webの利用その2
第6,8回 WWWコンテンツの作成(筑波大学 久野先生、神戸大学 辰巳先生)
第7回 name plate imageの製作
第9回 name plateの完成
第10回 情報伝達における約束事(日立IA)
<2学期> 
ねらい
情報活用能力の応用的実践力の育成
Web等による情報発信活用,表計算によるデータ分析・表現,ディジタル化に関する理解,ネットワークセキュリティー,プレゼンテーションの基礎
内容
第1回 ワープロを中心として, @統合ソフトとしての利用を扱う。Ahtml出力によるWebページ化を扱う。
第2回 表計算1(グラフ化とhtml出力)
第3回 音のデジタル化(日立IA)
第4回 表計算2(関数の利用)
第5回 著作権について( 岡本 薫氏講演)
第6回 プレゼンテーションの基礎 
第7回 プレゼンテーション発表会
第8回 Net Work セキュリティー(日立 IA)
第9回 Net Work セキュリティーについてのネットワーク利用討論会
第10,11回 班毎にテーマを決めて調査と発表準備
第12回 電子商取引について(日立IA)

<3学期> 
ねらい
総合実践
1,2学期に獲得した技術,知識を総動員して,情報授業を企画・実施し,自己分析する。
内容
a 各チームの特色を生かした情報の授業 内容、やり方、時期は全てチームに任せる。
・ディジタル ハード&ソフトの基礎の基礎
・コンピュータの歴史
・Web検索の技
・その他
b 「情報授業」を創ろう
 ・生徒による情報の授業;生徒が生徒に教える。
 ・準備に3時間程度あてる。
 ・10分間の授業をする。
 ・5分程度の試験(各班で作成)をし、相互評価する(伝えたいことがどの程度伝わったのかをテストで調べる)。
 ・試験結果を分析し、自己評価する。
 *いかにして自分が伝えたいことを、確実に伝えるか。
  →このために必要な、最適の手段となる教材を用意。
   最適の手段は、コンピュータとは限らない。
   オリジナルなデータに基づく授業
 *どのように伝わったかの分析
  →表計算は必ず利用して、分析レポートを出す。

d 各学期における評価の観点
1学期
 各項目が出来たかどうかのみの判断とする 全員が出来るようになることを目指す
2学期
 各項目が出来たかどうかと同時に,オリジナルな情報発信,分析の工夫,表現の工夫,自らの意見,共同作業への参画などを評価
3学期
 ・授業,評価テスト,レポートなどの教官による評価・毎時の活動報告評価
 ・授業テストの生徒の個人評価
 ・授業テストによる生徒の相互評価
 ・授業テスト結果の分析による自己評価・特別授業に関する教官による評価

3 問題点、今後の課題
・TAの確保,金銭的な保証や保険制度の検討を要す
・TTによる情報交換の複雑化
・サーバー,ネットワーク,端末などの保守管理が大変 期待に応えて,活用度が上がるほど大変
・生徒全員のアカウント発行,ホームディレクトリ分与も大変
・すべてをサーバーネットワーク上で行うことの危険性は大きい
・コンピュータ室,生徒回線,生徒端末共有の解放を支える指導管理も大変
・実践に伴う情報倫理やセキュリティーの共通理解が不十分
・著作権上の問題は山積み
・今後の情報以外の教科や特別活動での活用推進が大切
・端末の確保など金銭的な問題が付いて回り,この解決は学校レベルでは困難

。 本研究に基づく提案
1 教科情報は各校の実態に合わせて学習内容を考慮し,1年生に必修として開始するのが好ましい。
2 授業は,情報の専門家を中心にあらゆる教科が協力したTT及び大学生などのTA,学校外の特別講師等も交えて実施する。
3 学校全体のコンピュータネットワークを管理運用し,その活用のアドバイスが出来る電子司書を各校に配置する。
4 各学校からインターネットへの接続は,高速専用回線を利用して,各都道府県教育委員会レベルで運用する学校用ネットワーク(school network)やそれらを束ねる全国規模の教育用ネットワーク(educational network)(文部省などが運用)を通して行う。
5 校内端末は,1週間(5日)で全校生徒が少なくとも1日は放課後に利用できる環境が望ましい。このためには,生徒5人に1台の端末が必要となる。この利用は,開架式図書館や教室文庫のごとく自由な利用環境が望ましい。
6 教職員には,一人一台のネットワーク接続端末を与える。
7 教職員、生徒全員のアカウントを発行し、ホームディレクトリを与える。
8 今後は,クリップファイルなど動画を含むマルチメディア利用を可能とするため,基幹1G,支線100M以上の校内回線を校内隈無く構築する。
9 生徒用と教職員用の回線を厳しく分離する。
10 コンピュータ室、生徒回線、生徒端末共有を生徒に開放する。
12 生徒の共同作業を必要とする授業を最終目標に入れ、コンピュータネットワークが人間と人間のコミュニケーションであることを意識させる。
13 実践を伴う情報倫理やセキュリティの重要性を教える。
14 成績処理などを含む業務用に,インターネットと物理的に分離したイントラネットを別途構築する。
15 教室,特別教室にはコンピュータ画面の投影が可能なプロジェクタを配置する。
16 ディジタルカメラなどのマルチメディア入力周辺機器を充実する。スキャナについては,教員によるコントロール下に置き,必要に応じて生徒に活用させる(安易な利用は著作権に関する意識が薄れる)。
17 サーバーへのファイルの転送には,各自のホームディレクトリにのみに転送でき,しかもドラッグ&ドロップ程度で転送が済む方式がよい。

「 おわりに
 授業について多くの教官が集まってこれほどに議論を重ねて授業を作り上げる機会ができたことは、本来の教科授業や教育実習生指導、さらには学校運営にさえ何らかのよい影響を与え得るように思われる。もはや個人の力では成立できない、多岐にわたる情報教育が、必要に迫られて校内の協力体制や情報交換の場を生み出し、学校教育の現場に新鮮な活力を生み出すかも知れない。
 この協力体制をさらに拡張すれば、大学や地域社会、保護者などとの連携も生まれてくるであろう。附属学校の特長を生かす意味で、大学や他の附属小中学校等との連携をはかった研究もめざしてはいたが、今回の研究では具体的なものとならず、今後の課題として残っている。
 情報の授業実践研究は、始まったばかりである。ハード、ソフト、人的環境、予算措置、各種支援体制、情報交換体制など研究を深めねばならない内容は限りなく残されている。来年度は、今年度の実践を活かして、2003年の指導要領実施において全国の高等学校が情報の授業を実施するための実用的な研究を深めたい。
」 別添参考資料等
1 「情報科に対応した教育課程の編成と実践」東京学芸大学教育学部附属高等学校 研究紀要 第37集(2000年3月 教育工学委員会)
2 「物理におけるインターネットの利用」日本理科教育協会「理科」第30巻 第2号(200年3月 川角 博)
3 「情報」授業の実践 情報処理学会sss99研究発表収録 (1999年7月 川角、他)
4 3学期授業指示、教材、生徒の自己分析報告書、感想など(「教科情報 講習会 高等学校の実践例」講演資料より抜粋;2000年3月25日 東京学芸大学教育学部附属高等学校 川角)