「情報」授業の実践
東京学芸大学附属高等学校
川角 博、佐久間俊輔、長原美菜子、秋本弘章、吉野聡、大谷晋、坂井英夫、田中義洋
菅野晃、右田邦雄、田中正雄、遠藤信也、酒井やよい、遠藤真紀子、小久保理恵
(東京学芸大学教育学部附属高等学校 教育工学委員)
〒154-0002 東京都世田谷区下馬4-1-5、Tel 03-3421-5151,Fax 03-3421-51525
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概要
 本校「情報」授業の出発点は、各教科でのコンピュータ、ネットワークを活用した授業支援のニーズに応えるものであった。これと文部省教育課程研究指定校、新学習指導要領の教科「情報」の設置が重なり、実際に単位を与える授業としての「情報」がスタートした。ほとんど全ての教科での情報活用を支援するには、情報の収集、分析、活用、伝達、発信と表現の能力を身につけさせる必要がある。また、これを可能とする環境整備や、ネットワーク利用でのルール、広くは情報化社会におけるルールや価値観に関わる授業展開も必要となった。これらに関しての今年度1学期間における本校の授業実践について報告する。

1 「情報授業」開始の経過
1-1 必修「情報」授業設置の背景
 「情報」の授業を今年度より必修として実施したのには、つぎの3つの背景がある。
(1) 本校でインターネットの利用研究が始まったのは、平成7年度のことである(表1-1)[1]。私達はこの研究過程で、インターネットを中心とするコンピュータとコンピュータネットワークの教育への有用性と新たなる可能性を強く実感した。そこで、一連の研究期間が終了した後も、本校生徒への情報活用環境を整備し、さらに各教科での活用研究を進めていった(表1-2)。しかし、ここで大きな問題が2つあった。1つは、電子メールアドレスを与えても、その使い方を教えるシステムが本校のカリキュラムにはなく、教育工学委員の授業を削るなどして対応せざるを得ず、十分な指導が困難であった。2つめは、各教科でコンピュータ、ネットワークを活用した授業をするに当たって、その利用の仕方から指導しなければならず、本題に至るまでのギャップが大きかった。




 そこで、総合学習の先取りとして情報活用・発信の授業を設定し、あらゆる教科・科目や日常生活での情報活用・発信の支援をすることを企画した。本校での「情報」授業の設置の最大の目的はここにある。
(2) 附属学校の存在価値の一つに、実践的先行研究の実施がある。そこで、平成10,11年度の文部省教育課程研究指定校に応募し、過去の研究成果の上に、情報化社会に対応した現実的な教育について、実践的に研究することとした。
(3) 新学習指導要領に教科「情報」の設置が決まり、しかし、その実態は定かとは言い難いものがあった。これが何を目指すのか、現実にどんな授業をし、どんな生徒を育てようとしているのかがなかなか見えてこない。うっかりすると、抽象的な情報理論の授業になるか、いつの間にか他の教科にすり替えられてしまうのではないかと思われた。21世紀の情報化社会に輩出する生徒に、いま教えておくべきことが何であるのかを、これまでの研究成果と、今後の授業実践で世に訴えていく必要があると考えた。
 これらを総合した結果が、今年度からの1年生での必修「情報」授業の設置である。したがって、本校での「情報」授業の設置は、教科「情報」の先行研究というよりも、教科・科目や日常生活での情報活用・発信の支援をする必要性に基づくものである。このため、現在のところは新指導要領の項目をあまり強く意識してはいない。
1-2 「情報授業」に至る環境
 平成7年に端末5台で始まった校内ネットワークは、その有用性が校内で認められはじめ、昨年度までに校内隈無くネットワークが張り巡らされ(本校教育工学委員の手作り)、平成10年度には各研究室、特別教室、図書室やコンピュータ室などに60台ほどの端末を設置していた(現在約90台)。この際、コンピュータネットワークが校内で市民権を得たポイントが2つある。
 1つは、生徒用の端末を充実させるとともに、コンピュータ室を特殊な場所として閉じたものとせず、できる限り自由に使えるように開放したことである。少なくとも昼休み、放課後はほぼ自由に利用できるものとした。また、生徒全員に電子メールアドレスを与え、希望する生徒にはホームディレクトリも与えた。



 2つめは、できるだけ教官が使いやすく手の届く場所に端末を置いたことである。情報教育の必要性を観念的に理解していただけでは、無理をしてまで新たな授業を設置しようとの機運は高まらない。教官がコンピュータネットワークを中心とした情報活用にどっぷりと浸かって、その有用性や危険性を自ら感じていなければ仕事を増やしてまで「情報」授業を設置することはあり得ない。
 もしも2003年からの教科「情報」を本気で成功させたいなら、いますぐにでも、全ての学校に多数のコンピュータとこれらを結ぶネットワークを設置し、ともかく教員に自由に使わせることである。教科「情報」の教員免許所持者も生み出せず、現職教員の一部にしか教科「情報」を推進しようと言う機運を生み出すこともできず、これで情報教育を推進できようはずがない。

2 授業体制と授業環境
 以上の経過から、今年度より一年生に1単位で「情報」の授業を必修として実施している。これに伴う他教科の変更はない。つまり、昨年度の1年生の授業時数に1時間を追加したものである。
2-1 教官の体制
 この授業は、本校教育工学委員会のメンバー14人を中心に企画・実施されている。委員以外にも、教育工学委員会の連絡用メーリングリストに加わり、授業のサポートにのみ参加する教官や、受講生として生徒と一緒に同じ授業を受けている教官さえもいる。結局、この「情報」授業は、若手を中心に本校教官のおよそ半数に当たる二十余名によって実施されている。授業は、あらゆる教科、科目の教官が混在したティームティーチング(以下TTとする)により実施されている。更に4名のティーチングアシスタント(以下TAとする)(東京学芸大学4年生、大学院生)なども加わり、教材研究、授業、評価、補習、分析、メンテナンスなどを精力的に行っている。


2-1-1 TTについて
 1クラスあたり2〜3名の教官により、授業を行っている。このようにしたのには3つの理由がある。
(1) 過去の経験から、実習的要素の多い情報授業では、個人による一斉指導が困難であることが分かっていた。特に、コンピュータ操作などに大きな個人差が有り、これが一層一斉授業をやりにくくしている。複数教官による個人指導が随時必要となると判断したのである。また、授業を企画した段階では、TAの存在は考えられてもおらず、教官がTAとしてもはたらくつもりでいた(現在でも教官にその役割はあるが)。
(2) もともと、従来の教科・科目の授業でのコンピュータを中心とした情報活用・発信を支援する目的で情報授業を設置したので、異なる教科・科目の教官が混在して授業を実施すること自体が望ましかった。
(3) 情報授業自体が、教育そのもののあらゆる分野に関わっていると同時に、どの教科にも属していないとも思われる内容が考えられ、これらを克服するためにティームを組んだ。異なる教科の教官がティームを組むことは、新たな発想や展開を生み出し、1+1が3以上の力になっている。TTにより教官がお互いに学び取ったものは大きい。
 また、授業について多くの教官が集まってこれほどに議論を重ねて授業を作り上げる機会ができたことは、本来の教科授業や教育実習生指導、さらには学校運営にさえ何らかのよい影響を与え得るように思われる。
 TTの実際の組み合わせは、表2-1に示す。


 現在、8クラスに対して延べ21名が情報授業を直接担当しているが、これらは全て一種のボランティア活動であり、昨年までの授業持ち時数にこの分が単純に追加されているものである。授業実施以外に、準備や後始末、教官自身の新たな学習などその負担増は大変大きなものである。


2-1-2 TAについて
 過去2年間、本校ネットワークの管理・運営の補助として、本校卒業生の協力を得ていた。彼のはたらきはきわめて重要で、しかも彼自身の学習の機会ともなっていた。
 このことをもっと積極的にすすめ、情報授業を円滑かつ強力に展開するために、本学学生によるTAの可能性が教育工学委員会で検討された。TAにとっては、教育の実践学習の場面が得られることになり、教官にとっては負担減と大胆な授業の企画が可能となる。
 また同時に、現場教官が専門としない情報理論や情報倫理などについては、大学教官による特別授業として実施できないかとも考えた。
 大学生(大学院生)によるボランティア的補助と大学の教官による特別講義は、附属学校の特長を生かしてこそできるものであり、教育系大学における附属学校の存在意義を示すものである。
 このような背景の中で高校が大学との協力により作り上げる情報授業の可能性を検討しているとき、情報教科書などの検証実験の協力依頼があった。これに関連して、東京学芸大学数学・情報科の山崎教授、伊藤講師との打ち合わせから、TAが実現した。


 現在、表2-2に示すTAが実際に授業に参加している。当初私たちは、TAに多くを期待していなかった。特別に情報授業の学習をしてきているわけでもなく、本校のコンピュータネットワークシステムについては全く知らないのである。確かに、1から教えなければならないことが多かった。しかし、彼らはどん欲とも言える意欲を持って、次々と知識を得、技術を身につけていった。指示を待つのではなく、何ができるのかを探しているのである。事前に情報教育について何かできるTAかどうかは、この際全く問題にならない。学び、教えようとする意欲さえあれば、優れたTAとなるにちがいない。
 TAは教官にとっても、生徒にとっても、TA自身にとってもきわめて有用な存在である。特に私たち教官にとってTAは、授業をサポートしてくれる以上に、情報授業を活気づけ、明るくしてくれる存在でもある。TAはすでに単なる補助以上の存在となっている。

 TAの役割や活動についてはSSS99報告書「情報教育支援活動と教員養成」[2]に詳しいのでそちらを参照されたい。

2-2 授業環境
 授業環境は、2台のサーバー(ともにsolarisで動き、1台を主に授業用に利用している)と生徒用端末約50台(全てマッキントッシュ、半分はiMac)である。生徒用端末はコンピュータ室と視聴覚室に分かれており、生徒が1人1台の端末を利用する場合には、2部屋に分かれることになる。現在、全生徒(1000名を越える)に電子メールアドレスを与え、1学年337人の全生徒一人一人にはホームディレクトリも与えている。電子メール(Eudoraを利用)や情報授業での作品、各自のWebページなどは、こののホームディレクトリ(一人あたり10Mを配分)に保存させている。unix上の各自のホームディレクトリへのアクセスは、マックのセレクタ機能をunix側のnetatalkにより可能にしている。セレクタによるファイル共有と全く同じ方法でホームディレクトリが利用できる。
 同様に教官用とTA用およびゲスト用としてJ組(本校のクラスはH組まで)のホームディレクトリがある。また、セレクタ上で教材配布用にGUESTという、パスワード無しに利用できるフォルダーも他のホームディレクトリと同列で存在する。
2-3 生徒実態
 コンピュータやコンピュータネットワークの利用は、小中学校や家庭でも急速に広がりつつある。そこで、この授業のはじめにプレアンケートを実施した(もちろんコンピュータネットワークを利用したアンケートである)。その一部結果を以下に示す。 プレアンケート等から、生徒達のコンピュータ利用経験は急速に増しており、家庭でインターネットを利用している生徒も半数に上ることが分かる。しかし、インターネットに触れたことのない生徒の数も無視できない。このように、情報の授業を受ける生徒のスタート地点には、大きな開きがある。このような多様な生徒達に、飽きさせずかつ落ちこぼれさせずに授業を展開する必要がある。この可能性については、平成11年度のインターネットに関する調査[3]でもうかがわれており、予定通りとも言える。

 このために、私たちはコンピュータネットワークと電子メディアに徹底した授業を展開することにした。コンピュータに対する慣れの違いはあるものの、コンピュータネットワークを本格的に利用した経験のある生徒は少なく、この点で生徒のスタートラインは近づくことになる。また、一番経験の多いワープロは、とりあえず後回しとして、日本語の取り扱いは電子メールを多用させる過程で身につけさせるものとした。
2-4 保護者との関係
 入学試験以前にカリキュラムで必修「情報」1単位が示されていたとはいえ、聞き慣れない、現行指導要領から見れば特に必要としない教科でさえある。保護者にも積極的に授業の公開、インターネットの体験をしていただいて、理解を得ることとした。これまでも、本校の情報教育への理解を得るために年3回の「インターネット保護者見学会」は実施しされていた。今年度は、授業見学も含めたインターネット体験会を1学期だけで3回実施し、参加希望者多数のため、調整に苦労をしている。
 以下に見学会参加者からの感想メールの1つを示す。
 「娘が学校で「インターネットやったよ!」と嬉しそうにしているのをいつもうらめしそうにみていました。いつかきっと自分もとひそかに計画していました。そんな折この講習会の案内をみて大変うれしくおもいました。
奥さん方の中孤軍奮闘がんばりました。ありがとうございました。」



3 授業実践
 社会に殺人者や盗人がはびこってしまったら、社会機能は不安定となり、多くの不幸が生じる。同じように、情報化社会でそのシステムを破壊したり、盗んだりするものがはびこっては、やはり情報化社会の根幹が揺らぐことになる。また、伝えたい情報を受け取る能力を広く国民に与えておくことも、社会にとって重要である。
 処理しきれない程の情報が飛び交う社会で生きていく生徒達には、その情報を活用し、あるいは廃棄・無視したり、新たな情報発信をする必要性に迫られる機会が増すことはあっても減ることはない。情報を判断、活用できる能力は、必要性に迫られ、実践を通して身につく。また、情報に関する倫理観は、従来の道徳のように(少なくとも現在の)生活の中で自然に身に着くとも思えない。情報に関する倫理観は、情報を扱う実践をさせる中で、(少なくとも現在は)恣意的に育てざるを得ないと思われる。ここに、学校教育での情報教育の必然性がある。
3-1 授業で目指すもの
 上に示したことを背景として、この授業設置の当初のねらいは先に示した通り「あらゆる教科・科目や日常生活での情報活用・発信の支援」である。この支援には3つの要素が含まれる。それは、(1)技能的能力の伸長をはかる、(2)理論的理解をはかる、(3)倫理的理解と実践力を育てる、である。また、発信するに値するオリジナルな情報を作り出せる能力の重要性はもちろん伝えていかねならない。しかし、週あたり50分、年間でも実質25回程度の授業に過ぎず、扱える内容には自ずと限界がある。
 そこで1学期は、上記(1)による実践の中で(3)の内容をも扱い、考えさせ、行動させることとした。
3-2 1学期授業内容
3-2-1 概要
 以下に、この1学期間の授業内容と結果の概要を示す。生徒にはほとんどの場合、本時の学習内容、課題、教材などをe-mailで事前に送っている。

第1回 コンピュータ室の使い方とマウスの練習 <学習内容>
・コンピュータ室の使い方 
・コンピュータの起動、終了 
・情報授業についての紹介、アンケートへの回答などを通してマウスの使い方を練習する
<教官用教材>
・情報授業について(Claris slide show)
・情報授業についての紹介(pesuasion)
・アンケート1集計(File Maker Pro ver.4.1 Data Base)
<生徒用教材>
・コンピュータ室の使い方(プリント) 
・情報授業についての紹介(pesuasion)
・アンケート1(Claris Data Base)
<授業結果>
 授業内容は質量ともに適切、マウスの利用についても問題は見られなかった。

第2回 ホームディレクトリの使い方と電子メールの準備
<学習内容>
・パスワードについて 
・ホームディレクトリの利用方法 
・個人ディレクトリの利用について 
・電子メール準備 
・簡単な日本語入力 
・電子メールの受信 
・電子メールによる返事
<教官用教材>
・ホームディレクトリとは(pesuasion)
・電子メール準備の仕方(html&プリント) 
・日本語入力の仕方(html&プリント)
<生徒用教材>
・sound Machineのインストール
・電子メール準備の仕方(html&プリント) 
・日本語入力の仕方(html&プリント) 
・パスワードメモ 
・添付ファイル(担任の声)つきメール;1st Mail
<授業結果>
 やや学習内容が多く、放課後の課題となった生徒も少なからずいたが、ほとんど全員のメール準備はできた。ホームディレクトリのイメージとパスワードの意味が理解された。

第3回 電子メールの利用と注意
<学習内容>
・電子メール受信 ・返信 ・送信 
・チェーンメール 
・メーリングリスト
・文字化け
・guestの使い方と注意
<教官用教材>
・電子メールの利用と注意(テキストでguestに置く)
<生徒用教材>
(全てe-mailによる提供)
・em_tyuui  ・mojibake ・mojibake
・Netiquette  ・2nd Mail
<授業結果>
 電子メール利用の反復訓練もかねていたが、やはり週に1時間の利用では、定着しがたい。必修課題2つの内1つは時間内に提出されていた。残りの課題と自由課題2つは、宿題となる。なお、文字化けメール(クイズ的な遊びである)を解読したものは、1学期終了時点でもわずかである。
 チェーンメールの問題点、安易なファイル添付の問題点、guestを通してのファイルの共有の意味と注意が理解された。

第4回 Webの利用その1
<学習内容>
・復習;各自のホームディレクトリーに入る      Eudoraの起動と設定変更

・Webによる検索を中心に、実践的に扱う ・ネチケットって何?
<教官用教材>
・Netiquette page
<生徒用教材>
・forstudents.html(search engineへのリンク)
・3rd Mail
<授業結果>
 wwwでの検索についてはとりあえずの理解はされたと思われる。前回までの稠密な授業内容からすれば、時間的ゆとりはあった。ただし、目的を持った検索を0からするには、慣れと時間がさらに欲しいところであろう。
 40台以上の端末による検索でも、何らネットワーク上の問題は生じなかった。

第5回 Webの利用その2
<学習内容>
・課題として出された情報を得る方法
・wwwで得られた情報の保存
・保存した情報の出力
・著作権について
<教官用教材>
生徒用と同じ
<生徒用教材>
・ネットワークプリンタ
・forstudents.html(search engineへのリンク)
・4th Mail
<授業結果>
 wwwからの情報の取得、保存、出力はほぼ全員ができた。Netscapeのメモリー割り当て不足に伴う異常が一部あったが、ネットワークプリンタへの出力待ちも十分に許される範囲内であった。
 40台以上の端末による画像のダウンロードでも、何らネットワーク上の問題は生じなかった。この際の校内ネットワークの最大トラフィックは24%程であった。
 著作権についての指導は十分とは言い難い。

第6,8回 WWWコンテンツの作成
<学習内容>
・WWWプレゼンテーションの作成において何が重要かの理解
・HTMLによる論理構造の記述、CSSによる表現の記述について
・情報をさまざまな形でうまく表現する
・リンクの概念について
 この2回は、久野先生(筑波大学)、辰巳先生(神戸大学)の企画・授業により実施された。詳しくは、普通教科「情報」におけるWWW情報発信教育の位置づけ[4]を参照されたい。


第7回 name plate imageの製作
<学習内容>
・ドロー、ペイントによる描画
・pict,jpegへの変換
・オリジナルな作品作りの重要性
ここで作ったイメージファイルを、第8回授業で各自のWeb Page にはる。
<教官用教材>
・ホームディレクトリtearcherにname plateサンプル(クラリスのDR,PT,PICTファイルとjpegファイル)
・教官用端末にドロー2.3ランタイム(GREENによるアニメ)
<生徒用教材>
・gusestにname plateサンプル(クラリスのDR,PT,PICTファイルとjpegファイル)これらを分解しながら仕組みを学ぶ。
・ドロー2.3ランタイムに示した内容のプリントを生徒用卓に配置
・本時の学習内容(e-mail)
<授業結果>
 統合ソフトでは、ドローとペイントが同じ画面に存在できるため、その違いを教えてもなかなか理解しがたかったようである。また、創作意欲も旺盛で、分かるにしたがって作品に凝りはじめ、ファイル変換の時間が不足する生徒が目立った。
 未完成のimageファイルについては、次回の授業で必要とするため、宿題とした。

第9回 name plateの完成 <学習内容>
・ドロー、ペイントの利用
・画像サイズの変更
・ファイル共有と情報の共有
・画像のカラー印刷
<教官用教材>
・ホームディレクトリtearcherにname plateサンプル(クラリスのDR,PT,PICTファイルとjpegファイル)
・name plate印刷例
<生徒用教材>
・gusestにname plateサンプル(クラリスのDR,PT,PICTファイルとjpegファイル)
<授業結果>
 林間学校での名札として利用するために、印刷出力する必要があったが、やはり作品作り、手直しに時間をかけてしまい、未完成の生徒が少なからずいた。
 ファイル共有に関しては、驚きとも感激ともつかない声が上がっていた。ただし、ファイル共有利用上の注意についての指導は不十分と言える。

第10回 情報伝達における約束事
 これについては、日立IAによる教材の検証実験として実施(本論文執筆時には未実施)。
 詳細については、日立IAからのレポートを参照されたい。

3-2-2 授業案の具体例
 多人数で作っているこの授業では、全員が一堂に会して打ち合わせをすることは困難である。このため、教案については台本の形で教育工学委員会メーリングリストに流し、生徒用には、本時の内容や課題などをクラス毎のメーリングリストを通じて事前に流している。
 台本例として、第2回授業の場合を以下に示す。このようにな形で、メーリングリストにより教科指導案が流されている。

********情報第2回*********

東京学芸大学附属高等学校 川角 博です。
情報第2回授業はこんな感じになると思います。
なお、4/20以降の授業用の生徒へのメール送信(音声添付)は、TAにお願いしようと思いますが、もしもそのやり方がよく分かっていないという先生は、視聴覚室に来てTAに教わって一緒に送ってください。
 第2回もいくつかのファイルを使いますし、サーバーへのログインもあります。教官の使っているメールサーバーとは違うサーバーを生徒に使わせるため、設定や送り先などにいつもとは違う部分があります。未だよく分かっていない方は、視聴覚室で勉強して下さい。
 第3回はWeb検索の予定ですが、今回のすすみ具合によっては、多少の変更があり得ます。準備は進めておいて下さい。

情報第2回
「ホームディレクトリの利用方法と電子メールの準備」

準備(事前に以下の準備を要す;4/17現在、☆が未完成)
・生徒のアカウント発行 ・パスワード入力 ・ホームディレクトリ作成
・netatalkインストール&設定 ・端末のネットワーク接続 
・Eudora原本の各端末への準備 ・クラス別メーリングリスト作成
☆添付用音声準備(1A,B,C,D,E,F,G,J;Hは川角が採集する) 
☆メール&添付音声ファイル送信(1Aのみ済み)
・ホームディレクトリの説明(persuasion上の動画利用)
・電子メール準備の仕方(自己学習用html文書、画像完成。カラープリント出力済み、4台に1冊あり)
・日本語入力の仕方(自己学習用html文書、画像完成。カラープリント出力済み、4台に1冊あり)

1 点呼:
教室,(視聴覚室での座席指定する;g-imacNo.と同じ出席番号、およびNo.+24の出席番号の人が席に着く)直ちに視聴覚室へ。
(3分)

2 本日の学習内容:
(2/5分)
 今日は、電子メールの準備をしながら、ホームディレクトリというものについて、簡単な理解をしてもらいます。電子メールの受信と、できれば簡単な返事を出して見ましょう。
 ただし、電子メールの詳しい使い方や使用上の注意などは、後日学ぶ。
 また、今日は全員が電子メールの準備をできないかも知れない。その場合は、次回に続きを行う。

********参考***********
*ホームディレクトリについての概要を知る。
*パスワードの注意を理解する
*電子メールの準備を完了させる。
*同時に簡単な日本語入力ができる。
*電子メールを受信できる。
*短文を返信できる。
***********************

3 ホームディレクトリは、ロッカー室のロッカーだ:
(5/10分)
3-0 G3上の「homeDirectry」ファイルをクリックして、プロジェクターに投影する。クリックするたびに、次画面に進む(9画面ある)。
3-1 ホームディレクトリにファイルをしまうのは、ロッカーにノートをしまうのと同じです。
3-2 ホームディレクトリというのは、別の部屋にあるサーバーと呼ばれるコンピュータの中の、君たちのためのロッカーです。ファイルをしまうためには、ロッカー室に行き扉を開けます。
3-3 ロッカー室にはみんなのロッカーがあるが、使って良いのは自分の番号のものだけ。コンピュータ上では、他人のものは見えない。自分主の以外に「ゲスト」用のものが見えるが、勝手に使わない。
3-4 ロッカーを開けるには鍵が必要。ホームディレクトリを開けるには「パスワード」が必要。
3-5 ロッカーは大切に使おう。(以下、画面の注意書き参照)
3-6 ホームディレクトリにファイルを載せると、コピーして内部に保存される。
3-7 ゴミは取り出して、自分の使っているコンピュータのゴミ箱に入れ、ゴミ箱を空にする。
3-8 パスワード配布に当たって、注意。(画面参照)

4 パスワード配布
(3/13分)
・TAがパスワードの紙片を配る。

5 ホームディレクトリへの ログイン
(5/18分)
 G3を投影しながら、J組(A組での授業では、01番、B組では02番、・・・、H組では08番を例に説明する)
5-1 やり方は、各コンピュータ上にある。説明を見ながら同時に作業をするために、同じ机上の右側のコンピュータ上にある「e-mailjunbi.html」(ファイル名を忘れた。ディスクトップ上に「日本語入力」用との2つのhtml文書のエイリアスが載せてあるので、確認されたし)をWクリック。
5-2 一緒にやっていきます。アップルメニュー(左上のリンゴマーク)をクリック。続いてセレクタをクリック。
5-3 左上枠内のAppleShareをクリック、右枠内のAppleShareServerをWクリック
5-4 名前に「g46j01」のようにキーボードから打つ。
注意:このとき、画面右上の右から2つ目のメニューが星条旗のマークになっていること、キーボード左下のCapsLockキーの緑ランプが消えていること。6-9までこの状態で使用する。

5-5 パスワードを入力する。
注意:0(ゼロ)とo(オー)を間違えない、 i, j, l, 1 を間違えない。
5-6 g46j01といったアイコンが現れる。これが、君のホームディレクトリだ。これをWクリックすると空っぽのウィンドウが開かれる。これで君は、iMacとは別のコンピュータであるユニックスサーバーには入り込み、これを使う準備ができた。

6 電子メールの準備
(15/33分)
6-1 画面上にある、青い「e-mailフォルダー」にマウスでカーソルを合わせ、マウスボタンを押したまま、さっき開いた空っぽのウィンドウの中に入れてボタンを放す。これで、「e-mailフォルダー」がコピーされる。
注意:もしもエラー表示がでたら、フォルダーのみがコピーされて、中身がない。このときは、ディスクトップ上の「e-mailフォルダー」をWクリックしてウィンドウを開き、キーボードの「リンゴマークキー」を押しながら「Aキー」を押すと、全部のファイルが選ばれる。この1つにカーソルを合わせて、さっきコピーした空っぽの「e-mailフォルダー」の中に入れる。
6-2 「電子メール設定」をWクリック
6-3 メニューの「操作」から「設定変更」をクリック
6-4 POPアカウントにある*****と@の間にカーソルをおき、1回クリックする。続いてdeleteキーを押して、*****を消す。そこに、g46j01のように入力する。
6-5 あなたの電子メールアドレスにある*****も同様にする。
6-6 本当の名前にある******もdeleteキーで消し、ローマ字で氏名を入れる。
6-7 「設定」をクリックする。
6-8 メニューの「操作」から「署名変更」の「標準署名」を選ぶ。
6-9 NAMEの部分をdeleteキーで消し、ローマ字で氏名を入れる。
6-10 (氏名)の部分をdeleteキーで消し、日本語で氏名を入れる。このためには、星条旗にカーソルを当ててマウスのボタンを押し、ATOK(or ことえり)を選んでおく。その後は、ローマ字を打ち、スペースキーを押すと変換される。正しい変換でなければ、さらにスペースキーを押す。確定するにはreturnキーを押す。
 日本語入力については、「nihongonyuryoku.html」(ファイル名を忘れた。ディスクトップ上の「日本語入力」用html文書)のエイリアスをWクリックすればよい
6-11 そのウィンドウの左上の四角(クローズボタン)をクリックすると、「保存する」かどうか聞いてくるので、保存をクリックする。

以上で、電子メールが使える。これから電子メールを使いたいときには、本校ネットワーク上のコンピュータであれば、どこからでも、自分のホームディレクトリに入り、これを利用できる。

7 電子メールの受信
(10/43分)
7-1 「ファイル」から「私書箱チェック」を選ぶ。
7-2 パスワードを入れる。
7-3 受信簿から読みたいメールにカーソルを当て、Wクリックすると、文章が現れる。
7-4 文章に従って、ディスクトップ上に届いた音声ファイル「1J.AU」をWクリックする。ありがたいお言葉が聞ける。
7-5 音声用のSoundMchineを「FILE」から「QUIT」を選んで終了させる。
7-6 電子メールの文章にもどり、「メッセージ」から、「返事」を選ぶ。
7-7 deleteキーを押すと、元の文が消える。
7-8 名前を入れ、先生のしゃべっていたことを書く。
7-9 「送信」を押す。
7-10 「ファイル」から「終了」を選ぶ。

8 ログアウト
(3/46分)
8-1 開いているウィンドウのくローズボタンを押して、ウィンドウを閉じる。
8-2 ログインしたときに現れたg46j01といったアイコンを、マウスを使ってゴミ箱に重ねる。ゴミ箱が黒っぽくなったら、捨てることができるので、マウスのボタンを放す。アイコンは消える。ゴミ箱は膨らまないので、ゴミ箱を空にする操作はいらない。

9 終了
(48分)
メニューの「特別」から、「システム終了」を選ぶ。
3-2-3 生徒への指示メールの具体例
 以下に第3回の学習指示例を示す。

*********2nd mail**********

second mail
以下の指示に従って、電子メールについて学習しなさい。

1 自分宛のメールを開き、日本語入力ができていることを確認しなさい。
2 異なる階のクラスメートに送信し、またクラスメートのメールを受信したら返事を出しなさい。ただし、送・返信ともに短い文章にしておきなさい。
(このとき、subjectの下にあるCc:やBcc:の次に自分のメールアドレスを書いてみてどうなるかを調べてみると良い)
3 以下の3-1,3-2は全員必須課題である。この答えをteach@mail.gakugei-hs.setagaya.tokyo.jpに送りなさい。できるだけ授業時間内に送信せよ。遅くとも授業後1週間以内に送ること。
 3-1 チェーンメールとは何か、どんな問題があるのか。
 3-2 これまでの情報授業についての感想を述べよ。

4 以下の4-1、4-2は回答自由である。もしも回答する場合、4-1は、授業後2日以内に、4-2は1ヶ月以内にteach@mail.gakugei-hs.setagaya.tokyo.jpに送りなさい。

4-1 自由課題1:メーリングリストを使って、学年全員350名にメールを送ったところ、全員からそのメーリングリストに返事が届いた。そこで、返事が届いたことを全員が再びメーリングリストで全員に送った。このときこのネットワーク上を行き交うメールは全部で何通になるか。このことから、「メーリングリストを安易に使うな」とする理由を説明せよ。
4-2 自由課題2:mojibakeを開いてみなさい。これは、ある添付書類である。これが何であったか解読してみなさい。

5 授業終了時に、以下の操作をせよ。
5-1 Eudora(電子メールを読むソフト)を終了する。
5-2 ゴミ箱は空にする。
5-3 各自のホームディレクトリをゴミ箱に捨てて、サーバーとの接続を切る(logoutする)。
5-4 コンピュータの電源については、教官の指示に従う。
5-5 椅子を整理して、教官の指示に従って退室する。

3-3 授業結果と分析
 授業結果の分析は、TAによる授業観察記録の報告(電子メールにより流される)、生徒からの課題や感想メール(担当教官に送られる)、name plate等の印刷物や生徒のWebページなどの作品によって行われる。

 早急に行われるのは、学習内容に従って必要な作業や作品ができたか否かのチェックである。その出来具合にまでは踏み込むことは少ないが、Webページの内容に問題があり、直ちに削除の指示を出したこともある。

 学習の遅滞や間違いが見られる生徒については、随時呼び出し、昼休みや放課後にTAを中心に指導している。また、奇数週の土曜日には、放課後に補習時間を設けている。そのようにしなければ、とても授業内容をこなしきれない生徒が少なからずいる。これは、学習内容を自分のものとするための実習時間不足による。今回の学習内容に対して、生徒が自由に実習に当てられる時間が各1時間は必要である。つまり、今回実施の学習内容だけでも2単位以上は必要である。

3-3-1 WebPageの授業結果例
 授業結果の一例として、WebPageの授業達成度を見てみる。この授業では、2人の大学教官が複数回の授業をし、本校教官も一部の授業をした。これを生徒のページの達成度として評価してみる(表3-1)。ただし、ここで言う達成度とは、授業目標とした内容がとりあえずどの程度組み込まれているかだけを見ており、これがよくても実際に生徒の実力として身に着いているかどうかは疑わしい。お助けファイルを利用した単なる模倣だけでも、とりあえず形だけはできるからである。また、情報発信に関する諸問題についてどれほどの理解を示しているのかは、このページだけからでは分かりにくい。

 表3-1で最もはっきりしているのは、2度目の授業クラスで達成度が大きく上がっていることである。A,G組とB,C組は、各教官にとってはじめての授業クラスと最後の授業クラスである。授業の反省から、授業を手直ししてその日の内にさえ、簡単に達成度を上げることができるのである。まだまだ授業方法の改善余地が多く残されていることが分かる。
 H組は本校教官による授業であるが、はじめに利用したお手本のhtml文中に、すでにリンクが記入されており、これをもって良しとした生徒が少なからずいたようである。その意味では、リンク無しとしているページ22名分には、全てリンクが入っている。
 いずれにしても、html文書作りの初心者にとっては、基本ページの学習だけでも2時間では不足していると言える。また、今後さらに各自のページを発展させ、お互いに評価、批判をし、情報発信者として必要な態度や能力を育てる必要がある。
3-3-2 情報授業の成果
 たった10時間の授業で、生徒達は、電子メールをかなり自由に使えるようになり、www検索、情報の取り込みができ、簡単なWebPageもできるようになった。しかしその一方で、やってはならないと教えたばかりのことをやってしまい、警告された生徒もいる。知らせなかった方が平和であったと思えることも少なくない。技能や知識ははともかく、価値観とこれに基づく行動力は、たかが10時間の授業で得られようはずもない。3年間を通して、あらゆる機会に情報活用の場面にさらされて、やっと身に着いていくのである。しかし、1000人に対して50台の端末はあまりに少なく、授業課題にすら十分な利用時間がとれない。
 この1学期間の授業分析は本論文執筆時には、わずかにしかなされていない。その後この分析が進んでも、1学期間の授業だけでは、とても情報授業の学習成果を評価することはできないであろう。生徒達は、いまやっと情報化社会の当事者であることに気づかされはじめたに過ぎないのである。

参考文献
[1] 平成11年度本校学校要覧(1999)
[2] 伊藤一郎(東京学芸大学)ほか;SSS99報告書「情報教育支援活動と教員養成」(1999)
[3]教育工学委員会(東京学芸大学附属高校);東京学芸大学附属高校研究紀要vol.36「情報化に対応した教育の実践」(1999.3)
[4]久野(筑波大学)、他;SSS99報告書 普通教科「情報」におけるWWW情報発信教育の位置づけ(1999)