第43回 全附連高等学校部会教育研究大会資料

必修「情報」授業の実践

             東京学芸大学教育学部附属高等学校 田中義洋・安井 崇


1 はじめに
 平成15(2003)年度から高等学校で新教科「情報」が必修となる。しかし、「情報」の授業の具体的な内容や授業方法については、いまだに具体的なイメージが見えないというのが、一般的な状況ではないかと思われる。
 本校では、1995年度から校内ネットワークの構築を始めた。その後、毎年ネットワークの延長・改良を続けるとともに、さまざまな教科でそれを利用した実践を積み重ね、1999年度からは1年生を対象に必修「情報」(1単位)の授業を実施している。本校の「情報」の実践については、これまでもしばしば全附連で報告し、貴重な意見をいただいてきたが、今回は2年半の蓄積を踏まえて、2000年度の必修「情報」の授業の内容を1年間の流れにそって紹介するとともに、それによって明らかになった新教科「情報」を展開する上での課題について、報告したい(今回の報告について、より詳しくは配布した、教育工学委員会「情報化に対応する授業実践と指導上の課題」『東京学芸大学教育学部附属高等学校研究紀要』Vol.38 平成13年3月、参照)。

2 本校の「情報」の実施体制
2−1 「情報」の設備環境
 1995年度に5台の端末から始まった本校の校内ネットワークは、現在では校内のあらゆる場所にはりめぐらされており、すべての教官室・HR教室に情報コンセントが届いている。必修「情報」の授業はiMacが設置された視聴覚室で行っており、1人1台の端末を利用することができる。この他に、生徒が休み時間や放課後に自由に利用出来るコンピュータ室がある。
 「情報」の授業を開始した1999年度以降は、全生徒に電子メールアドレスとホームディレクトリ(1人あたり10M)を与えており、電子メール、「情報」での作品、各自のWebページなどは、そこに保存させている。ホームディレクトリへのアクセスはマックのセレクタ機能をunix上のnetatalkにより可能にしており、セレクタによるファイル共有とまったく同じ方法で利用できる。                    
2−2 「情報」の人的体制
 「情報」の授業はティーム・ティーチング(TT)の方式で行い、ティーチング・アシスタント(TA)を採用している。「情報」は全教科の教官が含まれる教育工学委員会が担当しており、TTは教科の枠を越えて2ないし3人(年度によって異なる)でチームを組んでいる。このような体制をとったのは、実習的要素が強い「情報」では、1人による一斉指導が難しいことにくわえ、「情報」の内容があらゆる分野にかかわると同時に、どの教科にも属していないことからくる困難を克服するためでもある。
 教育工学委員会は、有志によるボランティア的な分掌で、かならずしもコンピュータに強い教官が集まっているわけではない。むしろ、教育工学委員会に参加することで、教官自身が互いにコンピュータ・ネットワークについての知識・技能などを高めあい、授業を作っているといった方がよい。教育工学委員会の活動は、「情報」にとどまらず、校内で教官同士が教育について忌憚なく話し合う人間関係を作っていく契機にもなっている。教育工学委員会は授業案の作成や情報交換にメーリングリストを使っているが、授業は担当しないものの、メーリングリストに加わって授業作りのサポートをしている教官もいる。(なお、2001年度は都立高校から5名の長期研修の先生を迎えており、全員教育工学委員会に参加してもらっている)。
 TAは、国立大学の附属学校であるという本校の特性も生かして、東京学芸大学の学生や本校卒業生などから、「本当に教師になりたいと思っている人」ということを唯一の条件として公募し、授業に参加してもらっている。TAは授業の際に生徒のサポートに当たるとともに、教材研究・評価・補習・授業分析・メンテナンスなどを精力的に行っており、「情報」にとって欠かせない存在になっている。生徒にとって、教官より年齢の近いTAのサポートは親しみやすく、好意的に受け入れられている。一方、TAの学生にとっても、教育実習とは違って、1年間通して学校の教育活動に参加することで、コンピュータ操作技術の向上のみならず、教職全般に対する意識・認識を高める貴重な機会になっている。このことは、教員養成のあり方の点からも注目に値するように思われる(TAについては、1999年度の実践が中心だが、教育工学委員会・TA一同「情報」授業に必要な人的環境の整備『東京学芸大学附属学校部研究紀要』Vol.27 平成12年6月、参照)。

3 「情報」の授業の概要
3−1 「情報」の目標と1年間の授業の流れ
 本校の必修「情報」授業は、さまざまな教科や教育活動におけるコンピュータ・ネットワークを利用した実践の積み重ねを踏まえて、そうした実践に必要な基礎を身につけさせることを目標として構想された。そのため、主なソフトやコンピュータ・ネットワークの使い方とともに、著作権やネチケットといった、ネットワークを利用する際のルールについても学習する一方、コンピュータの詳しいしくみや、プログラムについては取り扱っていない。
 1年間の授業の流れは、まず、1・2学期は、主なソフトやコンピュータ・ネットワークの基本的な利用方法、その際のルールについて実際に作業をしながら学習し、3学期には、1・2学期の蓄積をもとに、生徒自身が5人程度の班でプレゼンテーション・ソフトを利用した10分間の授業と5分間のテスト(授業の内容をどれだけ伝えられたかを確かめる)を行うという形になっている。以下、このような内容がほぼ確立した2000年度の授業の内容について、より具体的に紹介したい(今年度はそれに改良を加えて実施しており、その成果については来年度の本校『研究紀要』や『東京学芸大学附属学校研究紀要』に発表する予定である)。
 なお、本授業は1単位のため、本来の時数は35時間であるが、実際には行事などがあるため、2000年度の標準的なクラスの授業数は、1学期9時間、2学期10時間、3学期6時間であった。授業数が多いクラスは担当TTの判断で作業時間を多くしたり、独自の内容を盛り込んだりし、少ないクラスについては、作業の一部を課題として時間外にさせるなどして対応した。1単位の授業は授業数の差が大きくなりやすく、現場ではその対応が実践上の大きな問題になるが、ここではあまり立ち入らないことにする。

3−2 1学期の「情報」の授業
 コンピュータ・ネットワークを利用していく基礎の確立をめざして、以下の内容の授業を行った。

第1回 視聴覚室・コンピュータ室の使い方とマウスの練習
第2回 ホームディレクトリの利用方法と電子メールの準備
 ホームディレクトリのしくみと使い方を説明し、パスワードの配布など必要な作業を行う。電子メールを使用できるように、メールソフトを配布し、設定をさせ、簡単な送信・受信を行う。授業は、プロジェクタをつかってホームディレクトリのしくみのプレゼンテーションを見せてから、作業の仕方を投影で実演し、それから生徒にやらせる。
 以後の授業では、投影とともに電子メールによって生徒への指示をし、課題を提出させるので、電子メールについては丁寧な指導をこころがけた。
第3回 電子メールの利用方法と注意
 電子メールの送信・返信・受信の方法、文字化けメールへの対処方法を学習する。同時に、チェーンメールの問題点やメーリングリストの説明と利用にあたっての注意を行う(授業ではクラスごとのメーリングリストを課題の指示などに利用しているが、生徒の勝手な使用は禁止している)。
 以後の授業でも、随時作業内容に関連したネチケットの注意などを行い、ネットワーク利用の際のルール感覚が身につくように配慮した。
第4回 電子メール操作のマスターとWeb情報の検索方法
 電子メールを使用する際のモラル(匿名禁止など)について説明する。双方向的に情報をやりとりすることができるWeb情報の特徴(自分も発信者になれる、発信が自由であるだけに情報の質が玉石混交であることなど)を説明し、検索サイトの利用方法を学習する。同時に情報発信の際のモラル(発信するに値する情報を適切な方法で発信すること)について説明する。
 コンピュータの操作方法だけでなく、情報発信者としてのモラルを自覚させるように留意した。
第5回 デジタルカメラの利用方法とファイル共有の方法
 デジタルカメラで各自写真を撮影し、教官用端末のスマートメディアリーダで読み込んだものを、ファイル共有によって自分の端末のデスクトップに取り込む。さらに、画像をWebページで公開する際のモラル(風景・担任の写真・芸能人の写真などを公開してもよいか)について考える。
 この回で初めてファイル共有の作業を行うが、本校の授業では、コンピュータをネットワークで結んで利用するメリットを実感できるように配慮している。画像公開のモラルについては生徒自身の意見を課題として提出させ、ネチケット・著作権についての自覚を促した。
第6〜7回 ネームプレートの作成
 クラリスワークスのドローとペイントを利用して、林間学校で使用するネームプレートを作成する。作成の過程で、ファイル変換の方法、ファイル共有の方法などを学習する。さらに、GuestHome(情報授業のために利用する共用のディレクトリ)の利用方法を学習する(ネームプレートのサンプルをデスクトップにコピーして利用する)。
 林間学校(妙高高原、4泊5日)は1年生のもっとも重要な行事であり、普段の授業と行事を関連づけることを試みた。
第8〜9回 ホームページの作成
 林間学校用のネームプレートを表示したホームページを作成する。そのために、ファイルの圧縮の方法、html文書のしくみと作成方法、リンクをはる方法について学習する。その際、Web利用上のモラル(ネチケット・著作権など)について説明する。
 授業では、html文書のしくみについて理解させること、情報発信者としてのモラルや心構えを身につけさせることを重視することから、ページの作成自体は最小限の労力でできるように、教官側でホームディレクトリのなかのpublic_htmlのフォルダにhtml文書を保存すればページができるようにあらかじめ設定しておいた。
*生徒には、不特定多数に公開されるという前提でページを作るように指導している  が、さまざまなトラブルも予想されるので、生徒のページについては学校のページか ら直接は入れないようにし、ロボット検索にもかからないようにしている。
夏休みの課題
 ワープロの使用になれることと、2学期以降にホームページで発信するコンテンツとして利用するため、ワープロで自由課題のレポートを作成する。
*2001年度は林間学校との連携をさらに追求して、林間学校で撮影したデジタルカ メラの写真を使って、Webページ上に「夏の思い出」のページを作るという内容に 変更した。

3−3 2学期の「情報」の授業
 2学期は、1学期に引き続いてコンピュータ利用の基礎を確立するため、表計算ソフトやプレゼンテーションソフトの利用方法を学習するとともに、ネチケットや著作権についても一層の自覚を促すことを目指して授業を行った。なお、学期中、本校のネットワークのコンピュータウィルス感染が明らかになったことから、授業でウィルス駆除などを行った。2学期の授業については、1学期同様、投影による実演と電子メールの指示を組み合わせて進めたが、生徒の習熟度の向上にともなって、電子メールによる指示で生徒が自分で作業する時間を増やしていった。

第1回 レポートのホームページでの公開
 クラリスワークスのワープロに取り込んだ夏休みの課題のレポートをhtml形式で保存し、ホームページで公開するための作業をする(リンクなど)。その際必要なスキャナの使用方法やファイル変換の方法を学習する。
 これ以降、授業の課題などに支障のない限り、生徒が自分でホームページを充実させるのは自由としたが、それにともなって、生徒がWebページを無断引用して著作者の指摘を受けるなど、トラブルが起こることもあった。こうした場合は、その都度当該生徒に指導を行うとともに、必要に応じて授業で全体に対しても注意した(この件については第3分科会報告:鈴木仁也・川角 博「情報教育現場における諸問題」でより詳しくとりあげる)。
第2〜3回 表計算ソフトの利用方法
 クラリスワークスの表計算を利用して、表計算ソフトの基本的な使用方法(計算、関数ペースト、グラフの作成)などを学習する。さらに統計数値を処理するのに適切なグラフの選び方などについて考える。作成した表をWebページ上に掲載する(html形式で保存して、リンクをはる)。
第4回 掲示板とネチケット
 掲示板を利用した意見交換を行うとともに、その際に求められるネチケットについて学習する。
 この回の授業を行った際、一部のクラスで掲示板上に特定の生徒を中傷する内容のやり取りが行われた。これについては、生徒指導上も大きな問題であるため、ホームルームなどでも指導を行った(この件については前述の第3分科会報告でより詳しくとりあげる)。
第5〜7回 プレゼンテーションソフトの利用方法
 プレゼンテーションソフト(PowerPoint)の利用方法と人に情報を伝達する方法(内容の構成など)について学習したうえで、4人の班を作って4枚のスライドからなるプレゼンテーションを作成して、発表会を行う。スライドの作成に必要となる、Webページのダウンロードの方法などについても取り扱う。
 ここでは情報を的確に人に伝えるための方法を考えさせることに重点を置き、プレゼンテーションの発表の際、口頭での説明はなしで、スライドだけで何かを伝えられる作品を作るように指示した。
第8回 著作権について
 人権としての著作権の意味やなぜ著作権を保護しなければならないかについて学習するとともに、学校における著作権の取り扱いの特例についても理解させる。
*1999年度には、当時文部省国際著作権課長だった岡本薫氏(本校卒業生)に特別 講義をしていただいた。
第9〜10回 コンピュータウィルスについて
 本校のネットワークへのコンピュータ・ウィルス(ワーム)感染に対応するために、コンピュータウィルスについてインターネットでの調べ学習をさせるとともに、それをもとに各自の使用してい端末やホームディレクトリのウィルス駆除を行う。
 この授業は予想しなかったトラブルへの対処として緊急に行われたものだったが、コンピュータ・ウィルスについての学習は確かに必要であり、教官にとっても大きな教訓となった(この件については前述の第3分科会報告でより詳しくとりあげる)。
 
3−4 3学期の「情報」
 3学期には、1・2学期に蓄積した情報活用・発信技術と知識を総動員して、5〜6名の班ごとに10分の情報に関する「授業」を企画・実施させた(準備に3時間程度をあてた)。
 内容は基本的に各班に任せたが、^情報に関する諸問題や情報を支える科学・技術、それに関連する社会システムや人間との関連などについて、みずから問題を設定して学習する、_学習の過程で、これまでの「情報」の授業の成果を活用して、情報の検索・収集・分析・発信などを実践する、`情報を相手に確実に伝える方法を考え、実践する、aみずからの活動により、発信するに値する新たな情報を生み出す工夫をする、などの目標を達成できるように、助言・指導にあたった。
 「授業」のやり方も自由としたが、1・2学期以来の流れもあり、実際にはすべての班がプレゼンテーションを作成し、一部プリントなども併用して「授業」を行っていた。授業に合わせて、伝えたいことがどの程度伝わったかを確かめるための5分程度のテストを実施させ、結果を分析させた。
*3学期の授業はプレゼンテーションの実習としてのみ行った訳ではない。指導の際に は、授業の手段としては、プレゼンテーションソフトのみならず、ポスター・模型・
 実物・体験・模型などさまざまなものがありえること、調査の道具としては新聞・雑 誌・書籍など、活字メディアの方が有効なことも多いことなども指摘しておいた。ま た、1学期以来一貫して、コンピュータは情報を扱うための有効な手段であるが、コ ンピュータを操作できることと、発信するに値する情報を生み出す力があることは別 であることも折に触れて強調してきた。
3−5 「情報」の評価
 「情報」の授業では多くの課題が課されるが、それらは教官宛メールに送信(クラスごとにteach-aなどの宛先でメールを受け取る仕組みになっている)、視聴覚室の教官用端末に設置したフォルダに提出(ファイル共有を利用)、Webページへの掲載などの方法で提出される。各クラス担当者はこれらをチェックして評価を行う。当然、授業ごとに出欠は確認するが、課題がほぼ毎時間あるので、出席点を特別に評価の対象にはしていない。「情報」は実習が主体なので、定期考査も行わない。
 1〜2学期の授業は、情報に関する基礎的な技術を身につけることが主眼であるため、評価も課題が提出されているかどうかに重点を置いている。これに対して、2学期後半・3学期のプレゼンテーションについては、情報を取り扱う技術とともに、実際に情報を伝えることが出来たかどうか、情報の内容に独創性があるかどうか、引用などが適切に行われているかどうか、といったことも大きな要素になってくるため、観点別評価を行っている(細かい点については各クラスの担当者に任されている)。また、前述のテストの結果などによる生徒同士の相互評価も重視する。
 本校ではすべての教科について、学期ごとの10段階絶対評価と年間の5段階評定を出しているので、「情報」についてもこの形で生徒に評価を伝えている。実際の評価の状況は、1学期については長期間の欠席がないかぎり、ほとんどの生徒が10ないし9となっている。2・3学期は観点別の評価が入るため、若干成績にばらつきが出てくるが、今のところ生徒の「情報」への取り組みは熱心で、おおむねよい評価を受けているはずである。

4 本校の「情報」の授業と新教科「情報」との対応
 本校では今までの経緯を含めて、平成15(2003)年度から「情報A」を必修にしようとしている。配当年次については、現時点では確定していないが、2単位で展開することになっている。そのため、放課後等にはみ出している生徒の作業時間が、ある程度は授業時間内に納まることになると思われる。
 ここで、本校の「情報」の授業内容と、「情報A」の授業内容を、中項目のレベルで対応関係をみてみる。本校の「情報」の授業内容が、「情報A」の内容と十分に合致している場合は◎、ほぼ内容と合致している場合は○、内容と合致しているとまではいえない場合は△、全く扱っていない場合は×で示す。
(1) 情報を活用するための工夫と情報機器
 ア 問題解決の工夫:△
  本校の行っている授業で取り上げている課題全体では、問題解決を含むものとなって いるが、十分に扱っているとは言えない。
 イ 情報伝達の工夫:◎
 本校では、Webページ上での情報発信やプレゼンテーションを行うことに重点を置 き、授業を展開してきた。したがって、この項目については、十分に満足なものになっ ている。
(2) 情報の収集・発信と情報機器の活用
 ア 情報の検索と収集:○
 本校の授業でも、情報通信ネットワークやデータベースなどを活用し、情報の効率 的な検索・収集することを取り上げている。
 イ 情報の発信と共有に適した情報の表し方:○
 本校の授業でも、表計算ソフトを利用して、情報の加工や再利用を取り上げてい 
 る。
 ウ 情報の収集・発信における問題点:○
  本校の授業でも、プライバシーの保護や著作権などの尊重について取り上げている。
(3) 情報の統合的な処理とコンピュータの活用
 ア コンピュータによる情報の統合:△
  本校の授業でも、文書処理、表計算、図形・画像処理などのソフトウェアの活用を取 り上げている。
 イ 情報の統合的な処理:△
 本校の授業でも、各自のWebページ上で、林間学校の記録を「夏の思い出」という 形で作成させている。
(4) 情報機器の発達と生活の変化
 ア 情報機器の発達とその仕組み:×
 イ 情報化の進展が生活に及ぼす影響:×
  以上2つの項目については、3学期の授業の企画の1つとして、生徒が取り上げるこ とはあるが、取り上げているとはいえない。
 ウ 情報社会への参加と情報技術の活用:△
  生徒が自らの力で自らの考えをまとめていくような方向で、授業全体を考えている。
 (4)の項目を中心に、「情報A」の内容全体を網羅しているとは言い難いが、1単位の授業であることを考えれば、かなり健闘していると言えると思う。

5 今後の課題
 本校での実践を踏まえて、次のような課題があげられる。
(1) 人的ケアの確立
 「情報」が新科目になることにより、今までTT方式で行ってきた体制が免許制度との兼ね合いで難しくなる。新教科「情報」がうまくいくためには、TAやメンテナンス要員を含めて、人的ケアの確立が重要になってくる。
(2) 施設面の整備
 課題や実習を取り入れた授業展開を行う上では、ある程度の数の端末数の確保が必要である。また、校内で音声や画像をネットワーク上で快適にやり取りするために必要なネットワーク環境の整備も急務である。
(3) 今までの成果の継承が可能かどうか
 本校では、従来いろいろな科目で分担して取り上げていたコンピュータやネットワークの技術面を、独自に「情報」の授業として展開し、一定の成果を得てきた。新教科「情報」となることにより、他教科への良い波及効果がどの程度まで継承できるか、やや不透明な部分がある。
(4) 課題のあり方
 本校では、「情報」だけに限らず、さまざまな教科・科目で、実験・観察や課題学習を実践している。現在の1単位でも、授業時間外での生徒の負担はかなり大きい。2単位になることで、ある程度は授業時間で対応できるようになるとは思われるが、実習的要素の強い教科が入ることによる生徒の負担増は避けられない。現状でも生徒の限界に近いこともあるので、学校全体でのカリキュラムの調整・見直しも視野に入れる必要がある。
(5) 生活指導上の問題点
 例えば、端末の設定を勝手に変えてしまうなど、新教科の導入によって生じる新しい生活指導上の問題点も生じてくる。これらの問題点についての対処もいろいろ必要になってくるであろう。 
 なお、この件については前述の第3分科会報告でより詳しくとりあげる。

6  教育工学委員会によるコンピュータネットワークの教育利用に関する活動
 以下に、主な本校の取り組みについて示しておく。
(1) マルチメディア通信共同利用実験(平成7年度〜8年度)
(2) GOINのG1obal Schoo1 House Project(平成7年度〜8年度)
(3) GSH(G1oba1 Schoo1 House) Project(平成7年度〜8年度)
(4) オープニングデモンストレーション開催
  −インターネットの教育への利用方法(平成7年)−
(5) マルチメディア通信共同利用実験研究発表(平成7年)
(6) インターネット公開研究発表会開催(平成8年)
(7) Internationa1 Students Project参加(平成8年〜)
 −平成8年は南アフリカ、平成9年はオーストラリアにて参加−
(8) 高等学校におけるインターネットの教育活用に関する実践的研究(平成9年〜)
(9) 高等学校教育へのインターネット導入の試み(東京学芸大学教育学部附属高等学   校研究紀要Vo1.34 平成9年3月)
(10) OCNシンポジウムにて研究発表(平成9年)
(11) K12マルチメディア高速活用実践報告(東京学芸大学附属学校研究紀要第24集    平成9年6月)
(12) 高等学校教育へのインターネット活用実践報告(東京学芸大学教育学部附属高等   学校研究紀要Vol.35 平成10年3月)
(13) 文部省教育課程研究指定校(平成10年〜平成11年)
 −情報化に対応した教育課程の編成とその実践−
  (平成11年3月中間報告)
(14) 遠隔望遠鏡による天文授業(平成10年)
(15) 第40回高等学校教育研究大会(広島);「情報化に対応した教育の実践」を発表   (平成10年)
(16) 「情報化に対応した教育の実践」(東京学芸大学教育学部附属高等学校研究紀要   Vol.36 平成11年3月)
(17) 実践教育研究;1年生に必修1単位「情報」授業開始、IPAその他との共同実験   も実施 (平成11年度)
(18) 「情報」授業の実践;情報処理学会sss99研究発表(平成11年)
(19) 第41回高等学校教育研究大会(東京);「情報教育での大学との連携−TAの実    践」を発表(平成11年10月)
(20) 第41回高等学校教育研究大会(東京);「情報教育を中心とした総合学習−TTの   実践」を発表(平成11年10月)
(21) 公開授業研究会実施;情報化に対応した教育の実践−21世紀を支援する情報教   育−(平成11年10月)
(22) 教官研究費プロジェクト;情報化と総合化に対応したコンピュータネットワー   ク・マル チメディアの高等学校教育への活用に関する研究−「情報」授業の実践   に基づいて(平成11年度)
(23) 教育改善推進費による一般公募プロジェクト;新教科「情報」の総合的学習へ   の応用に関する研究(平成11年度)
(24) 文部省研究開発指定校;生徒の認識と学習観の発展を支える小・中・高一貫した   教育 (平成11年度)
(25) 学長裁量経費プロジェクト;「小中高の系統的な情報教育とその教育支援活動   に関する研究」(平成11年度)
(26) 「情報化に対応した教育課程の編成と実践」(東京学芸大学教育学部附属高等学   校研究紀要Vol.37 平成12年3月)
(27) 平成10、11年度文部省教育課程研究指定校「情報化に対応した教育課程の編成   とその実践」研究報告書(平成12年3月)
(28) 「情報」授業に必要な人的環境の整備(東京学芸大学附属学校部研究紀要      Vol.27 平成12年6月)
(29) 「マルチネットワークの構築−ヒューマンネットワークについて」
  「マルチネットワークの構築−教科情報におけるTA活動」(全国国立附属学校連  盟高校部会 研究集会2000)
(30) 情報教育と教科教育の関連について(全国国立附属学校連盟高校部会 研究集会   2000)
(31) 公開授業研究会「21世紀を支援する情報教育」(平成12年6月)
(32)「情報化に対応する授業実践と指導上の課題」(東京学芸大学教育学部附属高等   学校研究紀要Vol.38 平成13年3月)

7 終わりに
 新教科「情報」は、高校教育に従来なかった新しい世界を切り開く可能性を持っているが、以上検討してきたように、実際の授業を創り上げて行くためにはさまざまなハードルをクリアしなければならない。本校の実践がそのための手がかりになることを期待するとともに、忌憚のないご意見をいただいて、私達の実践を発展させていきたいと思っている。 


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