校長BLOG

第27回校長BLOG

Covid-19と社会の分断

―2学期始業式あいさつより(補遺)―

 

校長 大野 弘

 

今回も新型コロナウイルス感染症Covid-19の影響で、校内放送での始業式になってしまいました。延期していた辛夷祭の対面実施も再延期となってしまい、期待し準備してきた生徒の皆さんには済まない気持ちでいっぱいです。

東京都と首都圏は重症者数が増大し医療状況は逼迫しています。さらに、ここにきてデルタ株の影響か、20歳未満の感染者が増え、学校から家庭への感染拡大が心配されています。20歳未満の新規感染者は東京都では全年齢の18.3%、全国では20%を超えています。(9月5日集計日経チャートで見る日本の感染状況より)今後は今まで以上に学校での対応が重要になってきます。

さて、この新型コロナウイルス感染症の社会的特徴は、分断を深めることにあります。経済的に『富める国』と『貧しい国』、一国の中での階級や階層間、信条や価値観の違いのあるグループ間の交流を閉ざし、分断を強めています。

例えば、『富める国』がワクチンの免疫効果を高めるために3回目の接種を行うという動きがあります。この動きにWHOは強く反対しています。それは、『貧しい国』ではまだ1回もワクチンを打てない人が多く、『富める国』の3回目のためにワクチンが使われるとますます『貧しい国』にワクチンが回らなくなることを恐れているためです。

また、アメリカ合衆国では、マスクをするか否かといった対応についてさえ、医学的な論争というより政治信条の違いから互いに相手をののしり合い強い分断が生じているとのことです。

一般に、この感染症への対応が難しいのは、疫学的対応と経済的対応が相矛盾することにあります。疫学的対応だけを優先すれば、国を閉ざし鎖国状態にして、国内でも生活必需品の買い物以外の外出を禁止する(ロックダウン)ことにより感染状況はある程度抑えられるでしょう。しかし、そうなると、経済状況は厳しいことになります。経済状況を元通りに戻すためには、時間も費用も社会的犠牲も大きいことでしょう。したがって、ほとんどの国と地域では、感染症の状況がひどくなると経済活動を絞り、感染症が落ち着くと経済活動を再開する、そのことによりまた感染症の状況がひどくなると再度経済活動を絞るということを繰り返しています。その繰り返しの中で、ワクチン接種の拡大や治療方法の確立等による感染症収束を待つという苦しい対応をしています。

このことは、学校においても同様です。新学期を前に、保護者の皆さんから大きく分けて2方向のご要望がありました。一つは、感染症が不安なので登校を全面的に禁止して全てオンライン授業にせよとのご要望です。もう一つは、授業はもちろん、行事や部活動についてもできるだけ通常に近い状態で行うようにとのご要望です。生徒の皆さんもこの二つの要望のどちらかを思っているのではないでしょうか。しかし、この二つの要望の双方を同時に満たすことはとても難しいことです。感染症への対応を強化すれば教育活動を大幅に制限せざるを得ません。逆に授業や行事、部活動等を通常のように行うと、現状では学校内でクラスターが発生する可能性が大になります。

学校としては、可能なコロナ防止対策は万全にする。生徒には、不織布マスクの推奨、昼食等での会話を控える、できるだけ密集しないといった一般的注意を守ってもらう。また、ご家庭には、生徒に風邪症状があったり、生徒またはご家族が感染の疑いでPCR検査を受けたりしたときには、学校に連絡し登校を控えていただく等の措置の徹底です。しかし、デルタ株をはじめとする感染力の強いウィルスでは、これらの今までの感染対策をスルーして感染することもあるとのことです。そうなってくると、感染の可能性自体を減少させるべく教育活動を制限せざるを得ません。最悪の場合、このほど文部科学大臣が基準を示したような、学級閉鎖、学年閉鎖、臨時休校も考えざるを得ません。そういった場合には、対面での授業、行事、部活動は全て不可能となります。

苦しい判断を迫られているわけではありますが、本校としては、何回かお話しした、第一に生徒の健康と安全、次に授業、そして行事や部活動等について、優先順位を付けて対応してまいります。生徒の皆さんも、楽しみにしていたことが中止や延期になり苦しいところだとは思いますが、なんとか力を合わせて今を乗り切り、全員無事で感染症収束後の学校生活へ繋げていきましょう。理解と協力をお願いいたします。

 

今は、最近新型コロナウイルス感染症関係の本を読み漁っています。その中で今月の1冊、朝日新聞社編 『コロナ後の世界を語る―現代の知性たちの視線―』。先に紹介したイスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリやアメリカの生物学者にして文明批評家ジャレド・ダイアモンド、解剖学者養老孟司、生物学者福岡伸一など、国際的でかつ文理を問わない筆者たちが、コロナとその社会的影響に関して、生物学的、医学的、歴史的、社会的に考察しています。朝日新聞デジタルに載った記事なので表現は分かりやすく知的刺激に満ちた、そして新書版で薄くて読みやすい本です。不条理に流されるのではなく、不条理を何とか理解し、不条理に立ち向かうために、是非一読を。