
令和8年度 入学式 校長式辞(要旨)
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。
第73期 326名の皆さんを、在校生および教職員を代表して心より歓迎いたします。
今日から皆さんが学ぶ東京学芸大学附属高校は、単に知識を習得する場ではありません。探究活動や学校行事、部活動などを通して、大きく成長していくためのフィールドです。
皆さんは「自助、共助、公助」という言葉を聞いたことがあるでしょう。主に防災分野で使われる言葉ですが、私はこれこそが、これからの3年間、そして未来を生きていくための不可欠な「学びの戦略」だと考えています。
高校生活における「自助」とは、「指示を待つのではなく、自ら行動し学びを掴みに行くこと」です。本校の自主・自律の校風は、受け身の人には単なる「放置」に感じられるかもしれません。「自分がやるべきことは何か」「弱点をどう克服するか」、自分自身と対話し一歩を踏み出す力こそが、すべての学びの土台となります。まずは自らの知的好奇心を信じ、自ら動く姿勢を整えてください。
本校には多様な背景を持った面白い仲間が集まっています。一人でできる「自助」には限界があります。行き詰まったとき、隣の人の異なる視点や先輩・卒業生の発想が大きな突破口になります。こうした「知の交換」こそが、本校の重んじる「共助」の形です。
皆さんは「附属高校」という恵まれた環境(公助)の中にいます。しかし、意識してほしいのは「助けられる側」にとどまらないことです。将来、社会の各分野でリーダーとなる皆さんは、「得た知識やスキルをどう社会に還元できるか」という視点を持ってください。それにより、学びの質が「個人の成果」から「社会への貢献」へと高められます。
2026年、世界は複雑さを増し、正解のない問いに満ちています。だからこそ、自分を律し(自助)、仲間と手を取り合い(共助)、社会を見据える(公助)姿勢が求められています。
この「附高」というフィールドを、存分に使い倒してください。失敗しても構いません。転んでも立ち上がれる精神を養う場、手を差し伸べてくれる仲間と温かく見守る教職員がここにいます。
保護者の皆様、お子様のご入学、誠におめでとうございます。高校生活の3年間は、心身ともに大きく飛躍する時期です。ご家庭におかれましても、温かい眼差しで見守り、信じ、見守っていただければ幸いです。
新入生の皆さんの高校生活が実り多きものとなるよう、心より応援しています。

第55回校長BLOG
第2学期終業式 校長講話(要旨)
令和7年12月25日
2025年も残すところあとわずかとなりました。今年は、大阪・関西万博の開催や、大リーグでの日本人選手の目覚ましい活躍など、心躍るニュースがある一方で、自然界の厳しさを痛感する出来事もありました。日々のニュースが示す通り、私たちの周りでは、喜びも悲しみも絶え間なく生まれ、そして移ろい続けています。
今日の講話では、『平家物語』の冒頭の一節を引用します。
祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり
娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす
おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし
猛き者もつひには滅びぬ、ひとへに風の前の塵に同じ
「諸行無常」とは、この世のすべては絶えず変化し、永遠に同じ状態ではいられないという真理です。これは現代社会においても、重要な示唆を与えてくれます。私たちが今持っている知識や技術、社会の仕組み、さらには「附高」という恵まれた教育環境すらも、決して永遠ではありません。
昨日の正解が明日には通用しなくなる。そんな変化の激しい時代において、私が皆さんに望むのは、「無常」を恐れるのではなく、それを当然のこととして受け入れる「しなやかさ」を身につけることです。私たちの学びは、常に更新され続けなければならない「通過点」であることを忘れないでほしいと思います。
もう一つ、心に留めてほしい言葉が「盛者必衰の理」です。かつて栄華を極めた平家が滅び去った根源には、自らの力や地位を過信した「驕り(おごり)」があったとされています。本校の生徒たちは、これまで様々な分野で優秀な成績を収めてきました。しかし、その成功に溺れ、自分の見えている世界が全てだと思い込む「独善」に陥った時、成長は止まってしまいます。
古代ギリシャの哲学者ソクラテスが説いた「無知の知」のように、「自分はまだ何も知らないのではないか」と自らを問い直す「知的な謙虚さ」こそが、真の知恵への入り口です。自分の至らなさを自覚し、他者の声に耳を傾ける勇気を持つこと。それこそが、将来、変化し続ける社会を導く「真のリーダー」の条件であると私は確信しています。
『平家物語』の鐘の声は、「終わり」を告げるものではなく、「今、この瞬間をどう生きるか」という問いかけです。
3年生の皆さん、本校で過ごす時間も残りわずかとなりました。周囲に惑わされず、自分との対話を大切にしてください。驕ることなく、今やるべき事に集中してほしいと願っています。
1、2年生の皆さん、年末年始という大きな節目を活用し、これまでの取り組みを振り返ってください。自分を律する勇気を持ち、次なる一歩への準備を整えましょう。
変化を恐れない勇気と、自らを律する謙虚さ。この二つを胸に、新しい年を健やかに迎えてください。

第54回校長BLOG
令和7年度 第1学期 始業式 校長講話
令和7年4月7日(月)
2年生、3年生の皆さん、こんにちは。今年度から校長を務める羽田邦弘です。どうぞ、よろしくお願いします。
私は、かつて埼玉県の県立高校で英語を教えるところからキャリアをスタートさせました。教員時代はイギリス留学やアメリカの大学院での研究を経験した後、埼玉県教育委員会で高等学校教育の改革に長年取り組みました。また、県立高校の校長としても勤務し、さまざまな教育現場を経験してきました。しかし、こうした私のキャリアの中で、私の教育観に最も大きな影響を与えたのは、JICA(国際協力機構)での国際教育協力の仕事と、この3月まで勤務した大学での教員の経験です。
JICAでは、「JICA地球ひろば」で2年間、教育に関するアドバイザーとして勤務する機会を得ました。そして、東南アジアやアフリカ、南米の国々の教育現場を訪問する経験を通して、日本の教育の持つ可能性や強みを客観的に捉え直すことができました。一方で、世界における教育格差や、社会や経済の発展度合いによる先進国との軋轢など、グローバル社会が直面する現実的な課題も深く知ることができました。
また、大学では教員養成課程の授業や課題解決型の授業を担当しました。そこで強く感じたのは、多くの大学生に見られる「挑戦することへの消極的な姿勢」と「正解を直線的に求めがちな姿勢」でした。皆さんも、つい安全な道を選びがちではないでしょうか。
今日は、そうした私の経験から皆さんに伝えたいことが、2つあります。
一つ目は、自分の価値観をアップデートし続けることの重要性です。私たちは しばしば、自分の中の狭い基準に縛られて、広い視野を失ってしまいがちです。「途上国は遅れている」とか「日本の教育は先進国に劣っている」といった、かつての私自身の先入観もそうでした。マレーシアやザンビアに行った時、複数の教育者から「日本の教育制度を目標にしています」と本気で言われた時、日本が持つ教育の強みを改めて認識しました。また、ブラジルやフィリピンでは、教材も乏しく経済的にも恵まれない環境の中で真剣に学ぶ子供たちを目の当たりにし、人間が本来持っている「学びたい」という純粋な意欲にも触れました。さらに、ラオスでは、人々が家族や人間関係をとても大切にしている姿を見て、我々が失いかけている重要なものを思い出しました。
現代のような、情報があふれる時代では、自分の中に生まれる無意識の前提を「疑ってみる力」が、思考を深める起点になります。閉じた価値観に自分を置かず、常に発散型の思考でいてください。
二つ目は、「勉強する」ことの本質を深く考えることの重要性です。大学で教えていて感じたのは、「勉強が目的化してしまっている」学生が多いことでした。偏差値や試験合格が、依然として「勉強の成果」として強調される社会ではありますが、私は皆さんに、勉強をもっと本質的なものとして捉えてほしいと思っています。
「勉強」というと、大学入試のため、または自分の興味関心のためというイメージが強いでしょう。しかし、本当に意味のある学びとは、社会に出てから直面する未知の課題を乗り越える力、を育てるものだと考えます。そこには必ずしも正解はありません。自ら考え抜き、周囲の人と協力しながら、納得できる答えを創り出していくことが求められています。
皆さんが取り組む勉強を、単なる大学入試の突破という目標にとどめることなく、今後の「人生を切り拓くための深い学び」として捉えてほしいと思います。本校での学びの時間を通じて、皆さんが、真に主体的かつ創造的な学習に挑んでいくことを期待しています。
午前中に313名の新入生を迎えました。新しい一年が始まります。皆さん自身が新たな風を起こし、本校の更なる発展を牽引してください。教職員一同、皆さんの挑戦を全力でサポートします。
今年度も、共に頑張っていきましょう。