校長BLOG特別編<入学式式辞>

校長BLOG特別編<入学式式辞>

白いハナミズキが咲き誇り、緑の若葉が芽吹くこの清々しい日に、三百十六名の希望に満ちた新入生の皆さんを迎えることができ、学校として、まことに慶びに耐えません。

 

本日は、あいにくのコロナ禍で、設置者である東京学芸大学からも、後援会泰山会からも、同窓会辛夷会からもご挨拶を頂くことをお断りしてしまいました。失礼をお詫び申し上げます。

さらに、新入生の入学式を心待ちにしていらした保護者の方も、直接のご来場はご遠慮いただきました。学校としては大変申し訳なく残念な気持ちです。新型コロナウイルス感染症の一刻も早い収束を心から願っております。

 

新型コロナウイルス感染症は、変異株の出現など医療の面でも大変な状況ではありますが、社会的にも大きな課題を含んでいます。

第一には、この感染症が社会において直接のコミュニケーションを阻害することにあります。第二には、この感染症がデジタルトランスフォーメーション(デジタル技術による社会改革)を加速させることにあります。

このことは、新入生の皆さんにどのような影響を与えるでしょうか。

本校では、本物教育ということで、本物の教材に当たる、すなわち実験実習やフィールドワークを重視してきました。さらに、得られた情報を分析し、議論して、発表し合うという共同作業としての学習を大事にしてきました。しかし、コロナ禍での三密を避けるという観点から、このようなリアルなコミュニケーションには多くの困難を抱えることになりました。

また、コミュニケーションの手段として、リアルからデジタルにと変わらざるを得ない中で、我々の間に分断が生じています。物理的には通信環境や道具としての端末などの準備状況、リテラシーとしてはパソコン操作やズーム・インスタグラムなどのアプリケーションの習熟度により、コミュニケーションの質と量が異なってしまうのです。

この点に関して、本校では、既に後援会泰山会のご支援で校内のWi-Fi環境を整備し、昨年度からは一人一台パソコンの体制を開始しております。これらの方策により、校内での情報にかかわる格差を極力解消しています。

一方、デジタルなコミュニケーションにも良い点は多くあります。5Gに代表されるように、速度が飛躍的に大きく、情報伝達の遅れがほとんどなく、一度に多数の端末を結ぶことができるため、車の自動運転や建設・製造現場の無人化、医療における遠隔診断などほんの少し前まで夢の技術だったことが実用化しつつあります。

この他にも、技術に関する現実化しつつある夢としては、AIとディープラーニング、ビックデータの組合せにより、効果的な薬品など新しい物質の創造、新たな技術の創造もあります。人にしかできないと思っていた発見や発明もその一部は機械でもできる時代がすぐそこです。

 

では、この時代に、人は何をするべきか。機械にはできない何ができるのか。こんな時代に、新入生の皆さんは、附属高校で何を学ぶべきなのか。

シンギュラリティという言葉があります。技術が無限大と思われる速度で進んでしまい、社会が激変し、今ある職業の多くが機械に置き換えられる状況のことです。シンギュラリティが訪れるかどうかは別として、技術の進歩が指数関数的に加速しているのは事実です。この状況下では、今、皆さんの学ぶ知識や技能は間違いなく急速に陳腐化して役に立たなくなります。

それでは、学ぶことには意味は無いのか。そんなことはありません。むしろ逆です。これからは、皆さん全員が、一生学び続けなければなりません。六歳から二十代まで学び、二十代から六十歳ころまで働き、その後は余生を送る。こんな時代は終わりました。皆さんは、生涯にわたり学び、そして同時に、体力と気力に応じて一生働き続けることになるでしょう。

そのために必要なことは、一生学び続ける「姿勢」であり、学ぶための「方法」を身に着けておくことです。附高で学ぶべきことは、まさに、この「学びの姿勢と方法」です。これさえあれば、デジタルトランスフォーメーションだろうが、新たなる地球規模の危機だろうが、こわいものではありません。困難に対して、柔軟に、かつ、したたかに対応できることでしょう。

とりあえずの、学び続ける方便として、大学受験の勉強も大事です。しかし、学びの本質を忘れないでください。部活動や行事に積極的に参加して、AIにはできない対面でのコミュニケーション力や努力をし続ける耐久力をしっかりと身に着け、日々の学習で「学びの姿勢と方法」を身に着けてください。私たち教職員は全力で、指導に当たります。新入生の皆さんの、本気、元気、根気を期待しています。

 

三年後には、附高生活で鍛えた精神と肉体とを持って、希望の進路へと船出する皆さんを送ることを楽しみにしております。

 

次に、保護者の皆様に申し上げます。

この度は、お子様のご入学、誠におめでとうございます。

本日より大切なお子様をお預かりし、学校としてできる限りの教育を行い、お子様の健全なる成長を支援してまいります。

入学に当たり、学校として保護者の皆様にお願いが二つございます。

一つは、お子様が「高校生として必要かつ望ましい習慣」を身につけるよう、ご家庭でのご指導をお願いしたいということです。高校生の年代は、経験も判断力もまだまだ未熟です。また、高校生を取り巻く環境は決して安心できるものではありません。そういう状況で、良き習慣を身につけさせるには、ご家庭でのご指導が是非とも必要です。

もう一つは、本校の教育方針をご理解頂き、学校との連携をお願いしたいということです。生徒の実態と社会の状況を踏まえた本校独自の教育方針があります。このことをご理解頂いた上で、ご家庭と学校が車の両輪となり、お子様の成長を支援していきたいと考えております。何卒、よろしくお願い申し上げます。

 

結びに、本日入学した三百十六名の新入生の皆さんの充実した高校生活と、健やかな成長を祈念し、式辞といたします。

第25回校長BLOG

第25回校長BLOG

令和三年度 卒業式挨拶より

さて、卒業生の皆さん、卒業、おめでとう。皆さんは、約三年前の入学式の私の挨拶を覚えているでしょうか。私は、皆さんに国際社会に貢献するイノベーターになってほしいと願いました。そのための基盤を、本校の三年間で身に付けてほしいと言いました。そのためには、三つの心掛けが大事だと言いました。この三つを覚えていますか。

第一は、志を高く持ち、かつそれを持ち続けること。第二は、日々を着実に丁寧に過すこと、第三は、メリハリをつけた生活をしてほしいということです。きっと、皆さんは、この三つを本校の学習や行事や部活動の中で体現してきたことと思います。特に三年生での困難な状況下で、皆さんは忍耐力を発揮し、懸命に高校生活を充実させ、学習に励んでくれました。その成果は個々の生徒に明確に表れています。

皆さんは本校の三年間を通じて、国際社会で活躍できるだけの、学びの方法と、知の探究への意欲と、そして自ら運命を切り開いていく力とを身に付けました。これらの力と経験は、今後皆さんが危機に直面する度に、皆さんを支え元気づけることと思います。

皆さんが卒業後出ていく社会は、コロナウイルス感染症の猛威の後遺症が残り、さらなる学びのためには最善の環境とは言えないかもしれません。しかし、こんな状況の時にこそ、人間としての真価が問われます。

情報を自ら検証し、一方的で短絡的な偏見を排して分析し、柔軟でバランス感覚に富んだ判断をしてください。在学中のいろいろな式辞の際に、度々強調してきたのが、この「大衆の反逆」の時代にポピュリズムに陥らないでほしいということでした。SNS等で流布されている、自分だけが正しく他は全て間違っているという一部の言説を、自ら検証することなく信じれば、黒白がはっきりしていて自分で考える必要がないため「楽」です。しかし、それでは、知の創造はできません。現実を前にして、大いに悩み、大いに考えてください。

成果を急ぐ必要はありません。このような時代は、自分と周りの人々の健康と安全を第一に考えつつ、着実に学び、自らを鍛えていくことです。コロナ禍で養った力は、どんな時代にも適応するタフな創造力となっていくことでしょう。

そして、いつの日か、皆さん方一人一人が、自分の中に育て蓄えた力をもって、自然環境も、経済環境も、そして政治情勢も危機を迎えているこの世界に、イノベーターとして貢献していってください。私は、本校の「本物教育」を受けた皆さんが、世界に貢献する人間になることを信じていますし、心待ちにしています。

しかし、真剣に課題に立ち向かい、誠実に対応していく中では、時には疲れることもあるかと思います。そんな時には、本校で共に学んだ仲間を思い出し、会って話してみてください。高校時代の三年間を共に過ごしたことは、長い人生の中で、短くも輝かしい体験であり、仲間は本当に大切な友です。悩んだときにはひとりで考え込むだけではなく、信頼できる人に話すことで道が開けていくものです。共に学んだ仲間には、教職員も含まれていることを忘れないでください。

さて、皆さんに勧める最後の一冊。前にも紹介したかもしれませんが、読んでいない人には是非読んでもらいたい。『福翁自伝』。言わずと知れた幕末から明治にかけての最重要の思想家 福沢諭吉の自伝です。岩波文庫等で読めます。

私が福沢を好きなのは、彼が「勤勉な楽天家」だからです。彼の人生は起伏に富んでいます。中津藩の下級武士に生まれ、早くして父親を亡くします。後ろ盾のない状況で、自己実現のために故郷を出て大阪の適塾に入り、必死に蘭学を勉強して頭角を現します。しかし、せっかく蘭学者としての能力を認められかけた時に、オランダ語は時代遅れだということに気づき、急いで英語を勉強し直し、咸臨丸のアメリカ訪問に紛れ込んで世界を見てきます。その後も、維新直後、慶應義塾の創成期での東京の争乱を始め「危機的状況」は目白押しです。

しかし、彼はくじけません。まあ何とかなるだろうという楽観主義の下、その時自分ができることを懸命にやっていきます。危機の時には、「自分の為すべきこと、自分の為せることを、為す」。

極めて単純にして、極めて難しいことです。楽天的であることが大切です。為すべきことを力の限りやっていれば、後は余計なことを考えずになんとかなるさと開き直ることも大事です。『福翁自伝』は、辛い時に読めば「熱くなり」元気が出る本です。是非一読を。

 

校長BLOG(号外)

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校長ブログ号外

 

大学受験について、または3年生に送る言葉

 3年生の皆さん、今日は。お元気ですか。附属高校では一般入試の発表が終了し、普通の活動が戻ってきました。とは言っても、新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言下で課外活動の制限は変わりません。3年生の皆さんも、とにかく体調に気を付けて感染しないようにしてください。

国立大学の2次試験が今週末にあり、今年度の大学受験もいよいよ佳境に入りました。多くの皆さんが、今週末の試験に備え、最後の努力を傾けていること思います。ここまで来たら、最後は気合です。試験当日に実力を遺憾なく発揮できるように心がけましょう。

現役は試験当日まで伸びる、とよく言われます。ぎりぎりまで勉強すること、最後まであきらめず目標を目指すことが大事です。万万が一、期待した結果が出なくても、翌年に結果を出せるのは、今、直前まで食いついて勉強している者です。

私の失敗談を話します。約半世紀前の今頃、さる大学の2次試験を受けました。2日にわたった試験で、1日目に国語と数学、2日目に英語と理科がありました。私は理系だったにもかかわらず数学が苦手で、国語と英語と理科が得意でした。1日目に数学が半分ほど取れて、国語と英語は予想通り7割ほど取れたと思いました。理科は模試では最もポイントを稼げる教科だったので、受かったぞと油断しました。ところが、その理科の、特に得意だった化学の1問目がいくらやっても解けません。慌てて2問目に移ったのですがこれもダメ。物理を先にやろうとしましたが、気が動転してこちらもダメです。すっかり調子を崩してしまいました。

今、考えると、大学入試は競争試験であり、極論すれば合格点以上を取れさえすればよく、完璧を期す必要はないわけです。多くの大学の2次試験はせいぜい6割も取れれば合格します。1問くらいできなくともよい。多少の失敗に気持ちを乱すことが怖いのです。一つの大学の受験で小さな躓きは必ずあります。その時に、平常心を持って他の問題にあたることが大事です。事前には熱く勉強し、本番ではクールに挑んでください。

たかが入試、されど入試。私の年になると、生涯にわたって入試の結果が大きく影響することは無いと言い切れます。先に話した失敗も、今の仕事に悪影響を与えているとは考えられない。むしろ、あの小さな躓きは良い経験になったと思っています。とは言っても、当時はきつかった。やはり、努力した結果は成果として現れてほしいし、成功体験は大事です。皆さんには、ぜひ成功体験を積んでもらいたいと切に思っています。一方で、繰り返しますが、たかが入試です。失敗しても必ず挽回できるし、良い経験に変えることもできる。要は、その後の生き方にかかっています。結果に関わらず、努力したことは良い経験として残り、これからの人生を切り拓く大切な力となります。

3年生の皆さんが、体調と気力を整え、実力を発揮し、堂々と戦うことを願っています。

フレー、フレー、3年生!