第12回校長BLOG

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ダイバーシティの危機、または感染症蔓延下における寛容の精神について

 みなさん、こんにちは。緊急事態宣言から2週間がたち、本校の休業も5月6日までから5月10日(週休日を含んで)までに延長されました。それ以降についても今週中には何らかの動きもありうるこの頃。生徒の皆さん、保護者の皆さんも、いろいろなことに耐えてご自身の健康を保つために工夫していらっしゃることと存じます。
さて、先週のブログでネット上の情報、フェイク情報の見分け方等についてごく簡単に話しました。確かな情報をもとに行動するようにお願いしました。
先日のニュースで恐れていたことが起こっていることを知りました。それは、宅配便の運転手の方に、コロナを運ぶな等の暴言を投げつける人がいるとの報道です。同様のことは医療従事者のご家族にもあったとのことです。言うまでもなく、これらの方々は、ご自身にリスクを負いながら社会のため、皆のために働いてくださっている人です。感謝されこそすれ、非難されるべき人ではありません。そうした人々に対して、自分の不安、自分の恐怖を、フェイク情報等をよりどころとして投げつけているというのです。
さらには、地方において地元のナンバーでない車に嫌がらせをすることが頻発し、予防のため地元の○○県ナンバーでない車に「○○県在住者」等のステッカーを貼る人さえいるとのことです。もちろん、不要不急の遠出は自粛すべきではありますが。
このように、同じ国のなかでも自分と違う立場、自分と異なる地域の人に、「差別的言動」をする人もいるのですから、自分と異なる、宗教、民族、国籍の人にはさらなりというところでしょう。事実、アジアで日本人が、欧米でアジア人が、差別されているとのことです。(以上、NHKニュース)
こんな時こそ、危機の時こそ、人間としての品位が問われるのです。自分の不安を他へのバッシングに向けない。不確かな情報をもとに他者を差別したりしない。自分と異なるものを悪いものだと思わない。自分自身が、身の回りの人に誇りをもって接しましょう。寛容の精神が必要です。
一方では、医療従事者や流通を担っている人たち、社会を回していくためにリスクを負って働いている人を応援しようという動きも出てきています。それは、身の回りのことに限らず、他の国、特に医療状況の悪い国への支援にもつながります。身近な困った人への思いが、世界中の困った人への支援につながることこそダイバーシティの尊重であり、本校生徒の最大の目標とするところです。
今週の一冊、19世紀フランスの生理学者クロード・ベルナール、実験医学序説、岩波文庫。あのルイ・パスツールに、「実験という実にむずかしい技術の原則に関して、これほどの完全な、これほど深い著書は今まで現れたことは無い」と言わしめた本です。探究活動での皆さんの実験計画の参考となるでしょうし、人生の指針、生涯にわたる行動の「方法」となるかもしれません。是非、ご一読を。
では、また来週このブログでお目にかかりましょう。お元気でお過ごしください。

第11回校長BLOG

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感染症の終息・収束について

大野 弘

 

生徒の皆さん、保護者の皆さん、今日は。

入学式、始業式から2週間がたちました。生徒の皆さん、ご家族の皆さんお元気でお過ごしでしょうか。学校に来られない生徒の皆さんも、仕事が思うに任せないご家族の皆さんもご苦労されていることと思います。

今日は、私がこの新型コロナウイルス感染症(感染症名をCOVID-19というそうです)の終息・収束について調べたことをお話しします。日本やアメリカの技術雑誌、医学関係雑誌の情報で、元になる学術論文名も明記されていたので「今現在」としては確度が高い情報だと思います。

まずはここで使う言葉の概念規定から。終息と収束という言葉が使われています。ここでは、終息とは、世界中で感染者がいなくなり、一般人はその感染症について無くなったものと考えてもよい状況(もちろん国際的な感染症の専門機関では警戒は続けています)と定義します。天然痘などがそれです。収束とは、新たな感染者数が減少し、医療崩壊の危険性は去り、一般人が普通の行動ができるようになった時と定義します。収束状況であっても、地域によっては、またある時に、再び感染・流行が起こりえます。

ポイントはワクチンです。ワクチンが完成し世界的に供給されるまでは、終息はもちろん、収束もないでしょう。有効で副作用の少ないワクチンが開発されて普及し、ウイルスの変化速度も小さいと終息するかもしれません。しかし、ウイルスの変化速度が大きいと、昨年のワクチンではあまり効かないウイルスが発現し、新たなワクチンを開発する必要があります。普通のインフルエンザウイルスがこのタイプですね。したがって、インフルエンザは決して終息しません。しかし、その年に合ったワクチンを接種しておけば、感染しないか、感染しても重症化することを防げます。また、抗ウイルス薬(タミフル等)もあって、感染した時の重症化を防ぎ治療もできます。

新型コロナウイルス(ウイルス名をSARS-CoⅤ-2というそうです)も変化は速そうなので、最善のケースで、この普通のインフルエンザ同様ではないでしょうか。すなわち、ワクチンが完成して世界中で普及した時に、とりあえずは収束する。しかし、世界中どこかの地域、どこかの時期では、再び感染し流行も起こる。けれども、ワクチンもあるし(場合によっては抗ウイルス薬もあるし)パンデミックまではいかず、その地域、時期に、適切な行動制限(学校なら、学校ごとの学校閉鎖や学級閉鎖)をかければ収束する。

では、肝心のワクチンの完成予定はどうなっているのでしょうか。ワクチンの開発には普通5年以上かかるものだそうです。ワクチンの効果のシステムは、弱毒化したウイルスや死んだウイルスを体内に入れ、体内の免疫機構を活性化し、本物のウイルスが侵入してきたときに備えるというものです。その開発段階として、①まずワクチンとして使えそうなものを作り、②それが健康な人に悪影響を与えないことを臨床試験する(3か月くらい)、③それが患者に効くことを臨床試験する(6か月以上)、④そのワクチンを打った時にウイルスが入ってきても免疫機構が過剰反応(免疫増強)を起こさないことを臨床試験する(6か月以上)、の4段階があるそうです。④での免疫増強への対応検査は大事で、多くの開発中のワクチンで、免疫増強が起こり、ウイルス自体より大きな障害(例えば免疫機構の暴走によりひどい肺炎を起こす)を起こすことがあるそうです。

現状は、①と②がすみ、③にかかりつつあるそうです。そうすると最短であと1年はかかるということになる。これは緊急の状況なので最大限のスピードをもって手続き上の時間を極力かけないで行った場合です。

こう考えてくると、行動自粛は長引くかもしれません。また、完全な収束ではなくても、ある程度の行動再開はあるかもしれません。その時に備え、私たちの自宅での学習も充実させ、十分な成果を収めるようにしたいと思います。今、ネット上ではいろいろな情報が飛び交い、フェイク情報も多いようです。生徒の皆さんは、情報元を確認する、情報相互に矛盾がないかを確認する等の注意をして、確かな情報をもとに行動するようにしてください。

今週の一冊、辻邦夫、嵯峨野明月記、中公文庫。私は新潮社の布で表装したハードバックで持っていますが、極めて美しい装丁です。今はあまり読まれていない作家かもしれません。本能寺の変から徳川幕府開設にかけての時期、本阿弥光悦、俵屋宗達、角倉与一の3人が、それぞれの時代と自分のなすべきこととの間にどう折り合いをつけるのか。3人の声が、闇の中から呟き始めます。時代と自分を調和させた本阿弥光悦、周囲など一切かまわず自分の天性を最大限に発揮した俵屋宗達、現実と学問・芸術との狭間に迷い苦しんだ角倉与一。特に、光悦が至った「心意気しか残されていないところ」の心境は感動的だ。是非、ご一読を。

では、また来週このブログでお目にかかりましょう。お元気でお過ごしください。

第10回校長BLOG

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感染症蔓延下での生活について

大野 弘

 生徒の皆さん、保護者の皆さん、今日は。これから、学校が休校している間、週1回程度、校長ブログで私の思いを発信してまいります。よろしくお願いいたします。
さて、緊急事態宣言後、第2週に入りました。生徒の皆さんと皆さんのご家族の方はお元気でしょうか。外出自粛、在宅勤務を強く勧められ、業種によっては休業要請が出る状況下、保護者の皆様には、お困りのことも多々おありかと存じます。1日も早い感染症の終息と日常生活の再開が待たれます。
この事態に、生徒の皆さんも息苦しさを感じていることと思います。しかし、今こそ自分の行動を見直し、感染症が終息するよう各自ができることをなす時です。3密を避けて、外出を自粛し、自宅でできる学習と自宅または自宅付近でできる体力確保のトレーニングをしていてください。
課題については、少しずつICT、インターネット活用での学習が入ってきます。先生方は、少しでも皆さんの自宅での学習が充実したものになるよう必死に工夫しています。
さらに、長引く休業で心の悩みを抱えている生徒の皆さんのために、メンタル相談も行います。担任の先生か保健室に連絡してみてください。原則として在宅勤務の状況なので、返信は通常より若干遅れますが必ず返します。必要に応じてスクールカウンセラーの先生にも繋げます。これは、保護者の方も同様です。

今後の感染症をめぐる展開について考えてみました。山場は来週の23日頃になると思います。緊急事態宣言で在宅勤務が本格的に始まったのが10日頃で、その時までに感染していた場合の発症が23日頃であり、23日過ぎに新たに感染した場合の発症が学校休業明けである5月7日前後だからです。

以下の3つのケースが考えられます。
①幸いにも、4月10日の感染者数に比べ新たな感染者数が減少している場合。この時は厳格な対応無しでも終息に向かっていることが予想され、予定通り5月7日からの学校再開が可能となる。
②4月10日の感染者数に比べ、新たな感染者数がほぼ同数の場合。一般的には、その後厳格な措置を取っているので減少する可能性もあるが、何とも言えない。休業期間は多少延長される可能性もある。
③ヨーロッパやニューヨーク州のように感染爆発が起こっている場合。学校関係者にも感染者が複数出ている可能性もある。相当長期にわたる休業期間となる。

皆さんには、それぞれのケースでの今後の対応について決定したら迅速に連絡します。どのような事態になっても落ち着いて適切な行動をお願いいたします。
東京学芸大学のホームページに、國分充新学長の新入生への挨拶が載っていました(https://www.u-gakugei.ac.jp/pickup-news/2020/04/post-637.html)。1900年代半ばのフランスの作家アルベール・カミュの「ペスト」という小説を例に、危機の時代の生き方について紹介した感動的な文章です。是非、学芸大学のホームページで読んでみてください。
先に皆さんに1700年代のイギリスの作家ダニエル・デュフォーの「ペストの時代」を紹介しましたが、カミュの方が文学としては完成度は高いし感動もあります。私も、高校時代に初めて読み、今に至るまで数度読み返し、その度に勇気を得ています。学長が取り上げた主人公たち、医師のリウーと旅人タルーの英雄的な姿も素晴らしいが、私自身は日給62フラン30のオラン市臨時補助吏員グランに魅かれます。実生活では奥さんに逃げられた、小説を書くことを夢見ている冴えない初老の男です。彼はリウーとタルーのペストに対抗する保健隊の書記となって働いた。そのことに関してリウーが熱意を込めて礼を言うと、「こんなことは一番大変な仕事ってわけじゃありませんからね。現にペストっていうものがあるんですから、とにかく防がなきゃなりません、これはわかりきったことです。まったく、なんでもこれくらい簡単だといいんですがね」と答える。どうです、何ともかっこいいですね。危機の時には、自分のなすべきこと、自分のできることを淡々となすことが求められる。新潮文庫で読めます。

では、また来週このブログでお目にかかりましょう。お元気でお過ごしください。